小林貞作『ゴマの来た道』

 アフリカのサバンナで発生した(現在はインド原産という説もあるらしい)ゴマが、どのように変異しながら世界各地へ広がっていったのかを概説した本。

 古い本なので、遺伝子的な研究でなく、形態学的な研究でゴマの伝播経路を探っている。

 著者によると、日本列島は、ゴマ伝播のユーラシアにおける終着点だという。
 西域から中国にゴマが持ち込まれたのが紀元前3000年ごろときわめて早く、日本へも縄文時代には到来していたという。
 かつて縄文時代は採集経済だといわれたこともあったが、現在は縄文時代における農耕の存在はほぼ定説化されているから、ゴマが栽培作物として移入されたことは、間違いないと思われる。

 類似の作物にエゴマがあり、東南アジア原産のこちらはゴマよりさらに早期の縄文時代早期から導入されていたらしい。
 有用作物の伝播速度の速さには、驚くべきものがある。

 有用植物は、伝播の過程で栽培環境に応じて品種改良される。
 ゴマ伝播の終着点だということは、それだけ多様な有用品種が存在するということでもある。
 まわりを見ても、白ゴマ・黒ゴマ・金ゴマは一般的に栽培されているし、褐色ゴマの種子が売られているのも見たことがある。
 列島においては、ゴマの品種も多様なのである。

 著者は古くから、放射線照射によって突然変異を発生させるやり方で、ゴマの品種改良を行っているようである。
 人為的な突然変異という手法は、理論的に誤ったものとは思わないが、その安易さと副作用の危険性(その有無を含めて)などの点で、与したくない感じがする。(かつてコバルト照射によって短根化したゴボウを栽培したことがあったがやめた)

 環境に応じた地道な選抜を重ねて、列島らしいゴマを作っていってほしいものだ。

(1986,10 岩波新書 2011,2,24 読了)

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