高田宏『荒ぶる自然』

 2010年2月現在、民放ラジオでとても不愉快なCMが流れている。
 それは耐震住宅の宣伝で、女優らしき人が「もう地震は怖くない」と断言するのである。
 何たる不遜。何たる傲慢。


 所詮CMだから、出演料と引き換えに与えられた台詞をしゃべっているのだろうが、言っていいことといけないことの区別さえつかない出演者とスポンサーの無知と無神経が、不愉快だ。

 サブタイトルに「日本列島天変地異録」とあり、列島の民が知っておかねばならないことが多々、記された本である。

 なんども書いてきたことだが、日本列島の暮らしを特徴づけているのは、地形と気候である。

 地形的特徴とは、地球規模の造山運動のただ中にあるため急傾斜である点と、火山を多く従える点である。
 気候的特徴とは、暖流と脊梁山脈の影響により多雨である点と、寒流の影響や複雑な地形によって気候が複雑で、一般化し難い点である。

 ここでいかに暮らすかという問題は、列島の民にとって最大のテーマにほかならない。
 各種の天変地異との付き合い方は、列島の民にとって、生存の第一条件でなければならないはずであり、天変地異から逃れる方法は、納税の目的の重要な柱を占めていなくてはならないはずだ。

 この本には、震災・台風・津波・噴火など、列島での暮らしにおいてもっともポピュラーな自然災害のいくつかを取り上げている。

 著者の視点の確かさを感じさせるのは、被害を最小限にする上で必要なのは何かについて、列島の自然に即した見通しを記しておられるところである。

 税を預かる建設省(国土交通省)がダムによって治水をはかると言ってるのは、ほぼペテンに等しいのだが、天竜川三六災害を紹介する中でその点もきっちり指摘されている。
 桜島大噴火や三陸大津波の際、行政による警告を信用せず、古老の指示に従ったことで生命を全うできた例なども、紹介されている。

 この列島に住み続けるためには、天変地異は不可避であり、それらとどう付き合って、生命を奪われないようにするかが、最優先なのである。
 天変地異を、人の力でどうにかしようとすること自体、ペテンに等しい言説なのである。

(ISBN4-10-329511-2 C0095 \1545E 1997,2 新潮社 2010,2,19 読了)