山本紀夫『ジャガイモのきた道』

 ジャガイモの歴史に関する最新の概説。
 アンデス高地におけるジャガイモの栽培や消費について詳説しているので、興味深い。

 この本は、穀類以外の食べ物は、文明を生みだす主食たり得ないという定説への挑戦でもある。
 文明化は、富の蓄積(=私有財産の形成)によって行われる。

 古代社会における富の源泉は農業生産だから、とりもなおさず富が蓄積されるためには、食糧が蓄積されなければならない。
 蓄積可能な食糧といえば、一般的には、穀類以外には考えられず、イモ類は、長期保存が不可能なだけでなく、水分を多量に含有するため運搬に適さない。
 だから、イモは文明を生みださないという説には、説得力がある。

 これに対し著者は、インカ帝国を始めとするアンデス高地の文明は、ジャガイモによって生みだされたと主張する。

 南北アメリカの古代文明を生みだしたのは、トウモロコシだというのが高校の教科書にも出ている定説である。
 中南米ではキャッサバも主食だったとされるが、キャッサバ生産が文明を生みだしたという説明はされていない。

 ジャガイモは征服者たちによってヨーロッパにもたらされて飢えを救い、また単作と病害により大飢饉の原因ともなった。

 ジャガイモの日本への伝来は17世紀で、広範に栽培されるようになったのは18〜19世紀になってかららしい。

 本書によれば、高野長英の『救荒二物孝』には、「ちゝぶいも」なるジャガイモが紹介されているようだ。
 ネットには、秩父のジャガイモが、甲州の清大夫芋の系統だと述べているサイトがある。
 秩父の在来ジャガイモとして有名なのは、「中津川芋(大滝芋)」だが、大滝村は雁坂峠によって甲州と境を接する村であるから、「ちゝぶいも」が大滝芋である可能性は、あると思う。(大滝芋はロシアから来たという説もある)

 百姓を始めたころには、種芋といえば「男爵」と「メークイン」くらいしか売ってなかったが、最近は、いろんな品種があって楽しめるし、失敗も少ない。
 と思っていたのだが、本書には、原産地では各種品種を混植して不作を防ぐと書いてあった。

(ISBN978-4-00-431134-8 C0245 P740E 2008,5 岩波新書 2009,6,21 読了)