森永卓郎『「騙されない!」ための経済学』

 メディアが流す情報は、ほぼすべてがマインドコントロールに等しい作為に満ちている。
 AとBという情報をふまえて総合的に判断しなければならない場合に、どちらかの情報をメディアが意図的に流さなければ、情報の受け手はより正確な判断ができなくなる。


 メディアはまた、例外的事象を、不当に一般化して報道することも多い。

 それが経済ニュースになると、一般人には取っつきにくい用語や事例が多いため、なおのこと、理解するのがむずかしい。
 メディアには、評論者があまた登場して、さまざまに解説を加えるのだが、NHKの解説委員あたりの話はほぼ全て、現実を受け入れよというお説教でしかない。

 では、どうすれば騙されないのか。

 一つは、騙されないために、それなりの知識を身につけることだろう。
 キヤノンやトヨタがGMなどと同様にピンチだというようなあからさまなインチキは見破りやすい(これらの配当や内部留保を見れば一目瞭然だろう)が、種々の「財政出動」の効果などは、データがないので、よくわからない。

 まじめに働いていれば生きられる世の中を作るためには、少なくとも、今よりはまともな資本主義経済を構築し直さなければならない。
 まともな資本主義とは何なのか、複雑化した現在の世界経済の中で、改めて日本を考え直す必要があるだろう。

 もう一つは、「生きさせろ」というネットワークを作っていくこと。
 2008年は、格差社会の綻びがいよいよ顕在化した年だった。

 ヨーロッパや韓国のような市民運動の伝統を欠く日本では、不条理に対する怒りが不特定多数や弱者に向けられた。
 60〜70年代の運動が成熟を見ないまま終息させてられていった原因を、丹念に追ってみる必要がある。
 連帯を求めるならば、孤立を恐れずなどと気どるのではなく、一致点を求めて議論するしぶとさが必要だったのだと思う。

 市民運動にとっても厳しい冬の時代であるが、弱者と連帯し、保身に走ることなく、人とのつながりをもっとも大切にしていくことが、希望を灯し続けることになっていくだろう。

(ISBN978-4-569-64897-2 C1234 \800E 2008,5 PHPビジネス新書 2009,1,2 読了)