宇江敏勝『森の語り部』

 熊野の山里にかかわるエッセイ集。
 内容は多岐に渡っているが、山里にかかわるさまざまなことが語られている。


 山里における春夏秋冬の暮らしについては、『山に棲むなり』に記されたことごとの続編という感じ。
 前著が1980年代の山里を描いているのに対し、こちらの本はその後の山里物語だ。

 山村は実際のところ危機的で、生業はほぼ廃れ、集落としての機能も滞りつつあるのだが、そこでの暮らしは坦々と続いている。

 歴史における山里は、鉱産資源ブームや林業ブームによって異常な活性を示した時期もあったが、基本形は今のように、坦々とした時を刻んできたのだろう。

 この本には、熊野の原生林や大木林を歩いた記事がいくつか登場する。

 熊野古道を中心に、たった三回だが、熊野を歩いたことがある。(伯母子峠越え大雲取越え小雲取越え)
 そこで感じたのは、自然の豊かさというよりむしろ、人間の暮らしや情念の色濃さだった。

 該当ページに付箋を貼っておいた。
 いつか、これぞ熊野というような、重厚な森を逍遥してみたい。

(ISBN4-88008-266-X C0095 \2200E 2000,10 新宿書房 2008,6,22 読了)