謝花直美『証言 沖縄「集団自決」』

 この10年ほどのあいだに日本中にはびこった歴史修正論は、主として近代史上の諸問題について、歴史の偽造キャンペーンを進めてきた。
 これは御用学者・ライターを動員した、国家的謀略の一環だろう。

 彼らのターゲットはまず、隣国である朝鮮・中国にむけられ、次いで近代日本の暗部たる沖縄にむけられた。
 近代の沖縄は、琉球処分から国民国家形成にむけた各種アイデンティティ破壊、そして沖縄戦と、事実上の内国植民地として本土の犠牲にされてきた。
 もっとも、本土とて、北海道や農山村や日本海側地方などを内国植民地として、国家づくりが行われていたのであり、日本の近代化は周縁や内部に深刻な犠牲を生みだしつつすすめられた。

 いまの日本の進もうとしているのもまた、そのような社会なのだろう。
 歴史の偽造はまず、犠牲者は存在しなかったとか、たいした犠牲はなかったという捏造から始まり、犠牲者たちが自らすすんで惨劇に身を投じていったという嘘に至る。
 偽造屋たちの手口はおおむね共通している。

 沖縄戦の本質は、「本土決戦」の準備のため、県民の生命を費消することによって時間かせぎをするという点にあった。
 従って、県民の犠牲は、天皇制国家の延命のための捨て石に他ならず、他には何の意味をも見いだしようがない。

 偽造屋たちは、「住民に集団自決を強要する軍命令はなかった」(例えば「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」この産経新聞記事)と述べているが、県民が口頭による日本軍人の命令に違背できるはずがない。

 極限状況におかれた沖縄で日本軍は、県民虐殺事件さえ起こした。
 自国の軍隊によって殺害(ないし自決を強制)されるという不条理は、この軍隊の本質を雄弁に物語る事実である。

 歴史を見れば、日本のような国の軍隊を信用してはならないのは明らかなのだが、砲弾が飛び交い、食糧もないという状況のなかで、自国軍に依存するしかないのは当然だ。

 現在の自衛隊は、アメリカ軍の下請け隊という役割を果たしつつある。
 もちろん、国民の生命や財産を守る意志はないだろう。
 戦争のような非常事態が起きれば、自衛隊による国民虐殺が再び起きる可能性がある。
 アメリカ軍が日本の治安部隊として、国民抑圧に回る可能性もある。

 アメリカ軍や自衛隊のそのような本質を隠蔽するために、歴史は偽造される。

 このような歴史の偽造がまかり通り、国政の長たる総理大臣が偽造に荷担する発言を行って何の責任もとらない日本は、醜い。
 日本軍による戦争責任を日本人自身が追及してこなかった歴史のツケを、今、払わされていると感じる。

 ここに語られている切実な体験を国民が共有するために、ぜひ一読したい本である。

(ISBN978-4-11-431114-0 C0221 \740E 2008,2 岩波新書 2008,4,7 読了)