本多勝一『NHK受信料を拒否して40年』

 ここでいう「受信料」とはおそらくテレビ番組の受信料のことだろう。
 NHKラジオは毎日聴いているが、受信料が必要だという話は聞いたことがない。
 テレビ受信料なら、未だかつて一度も払ったことがない。

 本書によると、NHKテレビを見るには「受信契約」が必要だそうだが、そのような契約はしたことがない。
 従って、受信料の請求もされたことがない。

 厳密にいえば一度だけ、受信料の集金人が払えと言ってきたことがある。
 そのときには、受像機を所有していないと言うと、帰っていった。
 半世紀に及ぶ人生において、一度も受像機を入手する機会なくここまできてしまったから、この先もおそらく、積極的にテレビを見ることなく、人生を終えるのだろう。

 NHKテレビの放送内容に問題が多々あるとはいえ、たいへん良心的ですばらしい映像があることも承知している。
 であればなおのこと、国民の意見に耳を傾ける公共放送であってほしいものだ。

 ラジオについても同様のことがいえる。
 くだらない番組がほとんどだが、人格を感じさせるアナウンサーも、中にはおられる。

 だが、視聴者の意見に耳を傾けない姿勢だけは一貫しており、これはNHKのDNAなのだろう。
 1994年に、夜のニュースでこんなことがあった。
 どこかに投書したのだが、たぶんボツになったので、記憶のために再掲しておこう。

 1月28日午後9時すぎのNHK第一ラジオで、「政治改革」についての首相と自民党総裁との「合意」ができたという臨時ニュースが流れた直後、アナウンサーの「よかった」というつぶやきが聞こえた。この件に関し、翌日NHKに電話をして問合せたところ、「視聴者センター」との間でおおむね以下のような問答があった。

吉瀬:昨日9時すぎのラジオ第一放送で政治改革についての河野氏と細川氏との合意ができたというニュースの第一報があったのち、アナウンサーが小さな声で「よかった」と述べた。これはどういう意味か。
NHK:そんな事実は承知していない。
吉瀬:しかし事実だ。
NHK:それは技術的な問題で、私語が放送に混入したものだろう。今後気をつけるように伝える。
吉瀬:「よかった」というのは日本放送協会とは関係ない発言なのか。
NHK:日本放送協会は不偏不党であり、政治改革合意についてあれこれいう立場にない。
吉瀬:私はアナウンサーが「政治改革合意ができてよかった」と言ったのかと思っていたので、今の話を聞いて私は安心した。しかし昨日の発言は数百万人の視聴者に流れてしまっている。その中には私同様誤解している人も多いだろう。もし技術的なミスだとしてもその点を公に明らかにする必要がある。
NHK:本当にそんな放送が流れたかどうか調査する必要がある。
吉瀬:ぜひ調査してもらいたい。結果は知らせてほしい。私の電話番号は…。
NHK:(さえぎって)視聴者の方にいちいち答えることはやっていないので了解してほしい。
吉瀬:いちいち答えないのなら放送なり新聞なりに発表すればよい。そのほうがよい。
NHK:調べてからでないと何ともいえない。
吉瀬:調べた結果どうするのか。
NHK:これからどうするかは調べないといえない。
吉瀬:調べた結果は教えないのか。
NHK:答えられない。
吉瀬:それでは昨日の「よかった」放送はたれ流しと同じではないか。
NHK:こちらは係がちがう。ラジオのニュース担当に言ってほしい。
吉瀬:それではニュース担当につないでほしい。
NHK:つなげないのでかけなおしてほしい。

 つづいて番組担当者との対話の概略は以下のとおり。

NHK:(説明に対し)そういう発言があったとすればあってはならないことだ。調査する。しかしニュースの原稿は存在するが音声は録音してあるわけではないので結局言ったとか言わなかったとかいうことになるのではないか。 いずれにせよそのようなことがないようにする。しかし調査結果をお伝えすることはできない。
吉瀬:それでは聴取者に対する責任をとったことにはならないのではないか。
NHK:意見として承っておく。

 「視聴者センター」より番組担当者の方が比較的誠実に対応しようとしている姿勢がうかがえたが、以上の対話を通じて、「政治改革合意よかった」放送に関しNHKとして聴取者へは何の責任もとらないことがわかった。

(ISBN978-4-906605-27-9 C0036 \1100E 2007,7 金曜日 2008,3,30 読了)