神坂次郎『熊野まんだら街道』前・後編

 熊野街道は、熊野三山に至るルートです。
 主たる道は、大和からの小辺地・奥駈道、紀州からの中辺地・大辺地道と伊勢道の5ルート。
 本書は、このルートの各所にまつわる史実や伝説、人物などを短く語ったアンソロジー。

 熊野街道の歴史が面白い理由は、そこを歴史上の有名人がしばしば通行していること。
 有間皇子に始まって花山院、摂関家の人々、院政期の名だたる諸上皇、南北朝期には大塔宮、戦国時代には根来・雑賀の一揆衆、近世には紀州藩周辺の人々、近代には南方熊楠・大石誠之助らがいます。
 有名人の歴史が歴史ではありませんが、有名人が登場すると、歴史が身近になります。

 熊野の伝説の双璧は、娘道成寺と小栗判官か。
 いずれも熊野参詣にかかわる強烈で、味わい深い話です。
 あまた無名の参詣者を集めた熊野街道には、それだけ多くの悲話・秘話があったのでしょう。

 そして熊野街道には、紀州の暮らしがありました。
 一方に吉野・高野・熊野の山の暮らしがあり、他方に枯木灘・熊野灘の海の暮らし。
 これらの暮らしにも興味が尽きません。

 白浜まで高速道路が通じて便利になったような気がしますが、この本など読むと、そんな旅ではなにも見えないのだということがわかります。


(ISBN4-10-358406-8 C0095 P1500E 1994,2 新潮社 2006,10,6 読了)
(ISBN4-10-358407-6 C0095 P1500E 1994,2 新潮社 2006,10,7 読了)