太田光・中沢新一『憲法第9条を世界遺産に』

 宗教学者とお笑い芸人による対談。
 話題は縦横に飛び回っていますが、憲法第9条は世界遺産に匹敵する価値を持つと主張しています。


 第9条の意義についての考え方は、とても興味深い。
 星川淳という方の著書を援用してではありますが、平和憲法を生みだしたアメリカ人の発想の中にアメリカ先住民の考え方が反映していると述べています。
 また、「日本国憲法のスピリットは一万年の規模を持った環太平洋的な平和思想だ」とも述べています。

 テーマは憲法のスピリットなのですから、実証が問題なのではなく、憲法をどう考えるかが問題です。
 第9条の精神が、近視眼的なパワーポリティクスによって考えつかれたものではなく、一万年(アメリカ先住民がベーリング海峡を越えたのは一万年よりさらに前のことでしょうが)というスパンでなければとらえられないとは、とても雄大な発想だと思いました。

 対談者たちは、憲法改悪をひたすら叫ぶタイプの「護憲派」ではありません(「護憲派」の役割を軽視するつもりはありません)。
 それが故に、「護憲派」が軽視してきたいろいろな問題についても、考えておられます。

 第9条を遵守し続けることは、パワーポリティクスの中でどのような意味を持つのか。
 かつての大日本帝国や北朝鮮のような、イデオロギー的に煮つまった国に侵略を受ける可能性はないとは言えず、「憲法を守れ」だけでは、なんの力にもなりません。

 外国による侵略に際し犠牲は不可避だとすれば、どのような犠牲なら甘受できるのか。

 沖縄戦では、日本軍が日本人を殺しました。それは最悪でした。
 九州がX国によって占領され、そこに敵の陣地が構築されたら、本州の自衛隊基地から九州へミサイルが発射されるでしょう。そうなれば沖縄戦より無惨な事態です。

 対談者たちは、改憲にせよ護憲にせよ、軽々しく言うまえに、リアルなシミュレーションをしてみられればいかがですか、と述べておられ、その上で「憲法第9条を世界遺産に」と言っておられるのです。

(ISBN4-08-720353-0 C0231 \660E 2006,8 集英社新書 2006,9,15 読了)