品川正治『戦争のほんとうの恐さを知る財界人の直言』

 いい本ですが、タイトルが長すぎ。
 財界人の戦争体験記かと思いきや、そういう記述もありますが、メインは日本経済のあるべき姿についての問題提起です。


 著者は日本国憲法、なかでも第9条を機軸に据えた経済運営を提起されています。

 著者の議論の一つの柱は、アンチ=グローバリズムです。
 グローバリズムとは、アメリカの軍・産・政複合体の利益をめざす戦略用語に他ならず、日本がそれに積極的に対応するのは国を滅ぼすものだと、著者は言っておられるようです。

 日本の政治家や財界人(の一部)がアメリカへの随従を続けてきた結果、アメリカ人は、日本は自国の奴僕であると思いこみつつあります。

 日本の一部の政・財界人たちが何故アメリカに随従するのかは、はかりがたいものがありますが、付き従っていればコバンザメのようにおこぼれがあると考えているのかもしれません。

 筑紫哲也『スローフード』に指摘があるように、人類がみなアメリカ人のように暮らしたいと思えば、地球があと2つ(すなわち資源が現在の3倍)必要なのですから、アメリカ的なるものを世界一般に広げるのは、理論的に不可能。

 グローバリズムはアメリカ的思考・アメリカ的生活様式を世界に敷衍することではなく、アメリカによる一極支配を敷衍することに他ならず、グローバリズムを受け入れることは日本を売ることであるわけです。

 著者のもう一つの論点は、道徳資本主義とでもいうべき、節度あるモラルを伴った経済の姿です。

 1980年代のバブル期以来、世界と日本の経済は、カネを使ってカネを生み出すマネーゲームの様相を濃くしています。
 それはもはや、ものづくりという人間的営為によって価値を付加し、カネを得るというかつての健全な資本主義経済はなく、利のためには手段を選ばない醜悪なエコノミックアニマルでしかありません。

 企業は社員と社会のために存在するというのは、疑い得ない真理だったはずですが、それがいつの間にか、企業は株主のためにあるという論理に凌駕されつつあります。

 日本が自立的な経済運営によって国際社会に貢献するとともに、格差の生じにくい道徳資本主義によって福祉国家への道を歩もうとすれば、憲法第9条を核に据えるべきだという著者の説には、説得力があります。

(ISBN4-406-03262-2 C0031 \1600E 2006,5 新日本出版社 2006,8,29 読了)