梅原猛ほか『川の思想』

 1993年9月の「郡上八幡・清流カレッジ」の講義録。
 第一回目であるためか、そうそうたる著名教授陣によるずっしりした話が、収録されている。

 最近は聞かなくなりましたが、リゾート法華やかなりしバブル時代には、秩父地方でも、自然と調和した開発というようなテーマで、T氏という「自然派作家」による講演会が、何度も開かれていたことを思い出します。

 「秩父リゾート」計画の中核が西武鉄道であることは、隠しようがありませんでした。
 そして、この計画が、秩父地方の自然を壊滅的に破壊させる西武鉄道に対して、税制を始め諸制度その他あらゆる側面から、行政が援護するという、公私混同もいいところの、ずさんな計画であることも、明らかになっていきました。

 「自然を大切に」と言いつつ、このような計画の旗振り役をになう「自然派作家」の自然度がどの程度のものなのか、だいたいわかるような気がします。
 セダンではなく、4WDの車で林道を突っ走ることが自然を感じることであるとか、完全装備のキャンピングバスで「キャンプ」をするのがアウトドアだと思っているような「自然派」が、世の中にはたくさんいるのです。

 ここに登壇した著名人も、ことによると玉石混淆であるかも知れません。
 川を破壊する政官業のトライアングルと、腰を据えて闘う人でなければ、川を語る資格なしなどと、野暮なことを言うつもりはありません。(心の底ではそう思っているけど)

 しかし、日本の川の惨状を見るにつけ、闘わない「専門家」よりも、闘う人の肉声が聞きたいと思う、今日このごろです。

 内容的には、梅原猛氏の「川と日本人」が、日本における川の文化について、わかりやすく説いていて、興味深く読みました。

 しかし、冒頭の写真ページのわき水の写真が天地逆さまになっているのは、まことにお粗末。
 川の本でこういう写真が、他の本にもありました。
 日本の出版人が、川がどんなものであるのか、ろくに知ってもいないことの証左でなければ、いいのですが。

(ISBN4-635-31002-7 C0095 P1500E 1994,6 山と渓谷社 2001,9,16 読了)