松永勝彦・畑山重篤『漁師が山に木を植える理由』

 『森はすべて魚つき林』とか『ニシン山に登る』など、このところ何冊か、海の魚と山の森との関係について書かれた本を読みました。

 いずれも、興味深い本でしたが、今回読んだこの本は、森と海の生き物の関係について、わかりやすく、科学的に書かれていたので、とてもいい勉強になりました。

 干潟やマングローブ林、海中林などの機能については、何度か読んだことがありましたが、それらと自然林とが、どう関係するのか、この本を読んで、とてもすっきりとわかりました。

 かんたんに言えば、森から流れる水に混じっている落ち葉などの腐食物には、プランクトンにとって重要な栄養となるフルボ酸鉄が豊富に含まれており、豊かな森から流下する川の河口から、食物連鎖の出発点となる有機物・無機物が放出され、干潟や海中林を育てつつ、海の生命の母胎としての機能を果たしているということです。

 これは、とても新鮮な説でした。
 山の落ち葉を食べる虫を主食とする魚の釣りや、きのこ狩りを趣味としており、落ち葉を使った堆肥で、自家消費用の野菜など作っているわたしにとって、落ち葉などの腐食物は、たいへん身近な存在です。

 山が健全であることが、下流の水田地帯が健全である上での前提になることくらいは、理解していましたが、海の生態系が、山の健全さと、これほど深く関係するとは、知りませんでした。

 多摩川や荒川に加えて、かつては利根川までが流入していた東京湾という海が、どれほどすばらしい海だったか、十分想像できます。

 生態系は、源流から沿岸までを見通して考えなければいけないのですね。
 中でも、源流域の自然度を保つことが、とても重要だとわかりました。

(ISBN4-916008-85-5 C0077 \1500E 1999,4 成星出版刊 2001,7,16 読了)