小泉武栄『日本の山はなぜ美しい』

 この本は地質学、生態学を総合的に駆使することによって、森林限界以上の日本の山の地質や植生の特性について考察したもので、『週刊金曜日』に著者が自分で書評を書いていたのを見て、読んでみたものです。

 ニフティサーブのFYAMATRKをのぞいておられる方は、ご存じだと思いますが、私は、日本アルプスのような高山帯には、まず出かけない(^_^;)ハイカーです。
 基本的には、関東のヤブ山(人びとの生活のあとが色濃く残っている山)と東北のブナ山が私のメインフィールドです。だから、私の山歩きからすれば、このような本を読むのはお門違いなのです。
 でも、ぜひご一読をすすめたい本です。
 私は、理科の先生でもない、単なる山好きのひとりです。ですから、著者の論旨を正確に紹介することは、無理です。

 いい加減なまとめ方をすれば(^_^;)、日本の上空を通過するジェット気流の影響や、まれにみる豪雪地帯であるなどの日本独特の条件、地質形成の複雑さという条件、そして非常に長いスパンで見た地球環境の変動によって多様な斜面形成が行われたことなどによって、日本の高山帯独特の多様な地形や植生が形成されたということです。
 本のタイトルは、そういう意味です。日本の山は、世界的に見てもめずらしく、美しい山なのです。
 つまり、日本の自然は、とっても複雑な気候、地質、歴史環境の上にはじめてなりたっているということなのです。

 この本は、私みたいなシロウトにはむずかしい本です。でも、がんばって読み通しました。もし、木曽駒ヶ岳や後立山の鉢ヶ岳、白馬岳に行くとしたら、かならずこの本を持っていきましょう。
 なんでここにコマクサが生えているのか、説明できないと、恥ずかしいです。都会生活者が小さな鉢でコマクサを栽培することがいかにおろかなことか、山歩きを趣味とするくらいの人なら、きちんと言えるべきじゃないかな?
 困難な岩にルートを開拓するのもけっこうです。でも、この岩がなんでこうして存在してるのか、オレには関係ないし興味ないという人が、山をどれだけ理解したといえるのでしょう。

 クライマーのみなさんを敵視するつもりなんて、毛頭ないのです。
 みなさん、いっしょに山を勉強してみませんか、と言いたいのです。
 高山帯には直接関係をもたない釣り人のみなさんにも、この本をすすめたいです。
 著者のフィールドは高山帯の礫地が中心みたいですが、ブナ帯についても言いたいことがたくさんあるみたいです。戦後の自然環境について、著者はこう言っています。

 身近なところから自然が失われ、川で魚を捕ったり、空き地でトンボやチョウを捕まえたりすることができなくなっていくのと平行して、子供たちが野外に出て遊ぶことが少なくなり、自然に接して感動するという体験が減ってきた。おそらくこうして自然に関する理解度はどんどん低下していったのである。 (略)  このような歴史的経過から考えると、山や川の自然破壊をおさえ、豊かな自然を守っていくためには、どうやらそれと平行して、ちゃんとした人間を育てることからやっていかなければならないようである。すばらしい自然を見て、素直に感動できるような、感受性の豊かな人間を育てるということである。
 うーん、その通りではありませんか。  そのためにはまず、自分が感受性の豊かな人間にならねばなりませんね。  自分の墓穴を掘ったみたいです。(^_^;)

(ISBN4-7722-1330-9 C2040 P2600E 古今書院 1993,8月刊 1996,12,17読了)