柳沼武彦『森はすべて魚つき林』

 魚が生きる上で、樹木がいかに大切かということは、渓流釣りを趣味とするものにとっては、容易に納得のいくところです。

 その視点をさらに拡大すれば、流域の森と海の魚とが、ふかく関連するということについても、想像できるところです。

 では具体的にはどうなのか。
 また、ひとりひとりの国民に、いったいなにができるのか。
 それを考えるヒントが、この本の中には、たくさんありました。

 まずは、渓流域から沿岸までの水域の生態系を、トータルなものとして把握しなければならないこと。

 渓流の生態系は、流域全体の生態系の一環として存在しており、流域は、沿岸も含めた、大きなひとまとまりの中のひとつです。
 役所には、管轄なるものがありますが、ひとつの生態系は、バラバラに切り離して考えることは、できないのです。

 渓流の生態系の基礎をなす土壌や渓畔林についても、もっと勉強しなければならないと思いました。

 渓流の生命活動を維持するには、落葉・倒木等を捕捉・保持する機能が欠かせないとあります。
 なるほどと思います。

 落葉・倒木等のような物体だけでなく、それらを分解させる活動の途中で生じる有機物の粒子(POM)や水溶性の栄養分(DOC)の流れについても、考慮しなければならないとあります。
 自然の条件のもとでは、その地の渓流にもっとも即した樹種が、POMやDOCの大きい樹種のはずですから、渓畔林と渓流そばの斜面を構成する樹種は、限定されてくるのだろうと思います。

 沿岸漁業者の立場から、渓流の植生や環境を論じるというスケールの大きさに驚きましたが、生き物に関する議論は、本来、すべてそうでなければならないはずなのですね。

(ISBN4-89474-007-9 C0036 \2000E 1999,10 北斗出版 2001,1,31 読了)