赤星鉄馬『ブラックバッス』

 赤星鉄馬著とありますが、赤星氏の遺稿を編集・かつ現代語訳した本です。


 編者は、内容に大きな変更や付け足しはないと言っておられるので、それ(原著の論旨が曲げられていないこと)を前提に、感想を書きます。

 この本を手にした動機は、バス釣りの是非やバス害魚論について考える参考にしようと思ったのではなく、ブラックバスの放流という行為が、どのような意図から、どのような見通しに基づいておこなわれたのか、そして、どのように検証されてきたのかを知りたいと思ったからです。

 赤星氏は、日本に初めて、ブラックバス移入した人物です。
 『ブラックバス移植史』の感想でも紹介しましたが、氏が、バスを移入した動機は、荒廃する日本の河川湖沼にあって、ブラックバスは、価値の高い釣魚たりうるという、信念によるものです。

 その価値とは、赤星氏にあっては、徹頭徹尾、人間にとっての価値です。
 氏は、「あらゆる生物は、人間により効果的に利用されるために存在しているのである」と述べています。
 正面切ってこんなことを主張する人は、現在、あまりいないかもしれませんが、今の社会が、このような考えに基づいて動いているのは、たしかです。
 赤星氏に一貫しているのは、経済効果や釣趣によって、魚種を価値付けする発想です。

 しかし、この遺稿には、昭和13年(1938)年ごろに書かれたという、時代の制約はあるものの、注目すべき論点もみられます。

 彼は、バス移入によるの生態系への影響については、否定していないし、「現在の生息地以外には一尾も持ち出さないという方法によって、被害を一般に及ぼさない防止策も取り得る」とも、述べている。
 そもそも、彼は「学術研究魚」としてバスを移入したのです。
 バスをめぐる現状は、移入の動機とは、ずいぶん離れてしまっていると思います。

 赤星氏自身は、バス移入は失敗ではなかったといいつつ、「ただし、真の功罪はブラックバスの価値が本当に知られたのちに決せられるべきもの」と、結論づけています。
 その通り。
 問題は、日本の生態系に強いインパクトを与える外国産の魚をはびこらせることが、適当かどうかだと、思います。

 * わたしは、バスフィッシング自体を否定するものではありません。

(ISBN4-900779-09-1 C0076 \1748E 1996,6 イーハトーヴ出版刊 2001,1,4 読了)