関正和『大地の川』・同『天空の川』

 本多勝一氏は、「佐高真氏は講演会で『破防法は、適用するなら建設省に』といって爆笑を誘ったが、もはや今の建設省は『破壊省』の名がふさわしい。もともと川の管理を建設省にまかせていることも間違っている」(「『破壊省』と改名せよ」『週刊金曜日』第137号)と断定している。

 この間、ゼネコンがらみの事件や、二風谷ダム、長良川河口堰の建設強行などの事実を見ていると、それもそうかなとと思わせられる。
 萩原好夫氏の『八ツ場ダムの闘い』を読むと、その感をさらに強くする。

 しかし、『大地の川』を読んで、建設省にも、良識がないわけではないことを知った。

 河川技術者であり、建設省の官僚でもある著者の基本的立場は、国民の生命や財産を守るために、治山や治水が必要なのだということである。

 関氏が普通の官僚とちがうのは、たとえば長良川河口堰の問題について、治水のためだけから論じするのではなく、環境を保全についての議論をも避けずに、きちんと受けとめようとしているところだろう。

 古代以来の日本の治水の歴史をふまえ、なおかつ美しく、地域に根ざした川づくりのためには、なにが必要か。
 関氏は、行政・市民団体・学識経験者による自由な意見交換の場が必要だと主張する。この点については、非常に共感できる。

 このような提言が建設省の中からあらわれたことが、単に良心的な一官僚の独白に過ぎないのか、それともまさに建設的な河川行政の到来を意味しているのか、じっくりと見きわめたいと思う。

 関正和氏は、『大地の川』を上梓されて三ヶ月後に、ガンで早逝された。
 霞ヶ関のお役人だったある日、関氏は、ガンの診断を受けた。『大地の川』にある「多自然的川づくり」に取り組むかたわら、闘病生活を余儀なくされた。『天空の川』は、あくまでも楽天的に、おだやかにガンと闘い、最期を迎えられた関氏の明るい闘病記である。

 『大地の川』も印象深い本だが、『天空の川』も生きる勇気を与えてくれる本である。
人生のひととき、ひとときの意義について、考えさせられた。

(ISBN4-7942-0572-4 C0051 P1600E 1994,10月 草思社刊 1996,9,24読了)
(ISBN4-7942-0571-6 C0095 P1500E 1994,10月 草思社刊 1996,11,15読了)