柳内賢治『幻のニホンオオカミ』

 前の本と、タイトルが似ていますが、別の本です。
 著者(故人)は、昭和39年に、秩父の両神山でニホンオオカミと実際に遭遇したところから、オオカミを探し求める旅を始めたそうです。

 秩父地方では、オオカミは神の眷属とされています。
 この地位は、蚕の大敵であるネズミ類をオオカミが食べてくれるところから来たのではないかと言われています。
 そういう地方に、つい最近までオオカミが生き残っていたのは、偶然ではないような気がします。
 本書には、ニホンオオカミの骨の所有者一覧が載っているが、そのうち、由緒のはっきりわかっているすべてが、秩父から奥多摩にかけての地域で、得られたものだということからも、この一帯における、人間とオオカミの関係の深さを物語っていると思われます。

 こちらの本は、オオカミの範疇規定から、食べ物、習性などの生活、伝承、絶滅の原因などを総合的にまとめていますので、ニホンオオカミについての概略を理解するには、よい入門書だと思います。

 本書で著者は、ニホンオオカミが現存しているとすれば、秩父山地か、紀伊山地のいずれかではないかと言っておられます。
 その確率は限りなくゼロに近いかもしれないけれど、秩父のこの山のどこかで、健在でいてほしいものです。

(ISBN4-87891-048-8 C1345 P1800E 1993,3 さきたま出版会刊 1999,12 読了)