藤原仁『まぼろしのニホンオオカミ』

 サブタイトルに、「福島県の棲息記録」とあるように、福島県を中心とする東北各地における、ニホンオオカミに関する伝承や地名考証が豊富です。


 東北地方には、数多くの狼関連地名があるそうです。
 宮沢賢治の童話に出てくる「狼(おい)の森」は、岩手県ですね。
 なかでも、狼地名の多いのが、福島県。

 それは、かつてのオオカミ生息数と比例しているようです。
 東北北部には、餌となるシカやイノシシの棲息が少ないため、オオカミも少なかったのでしょう。
 シカやイノシシが、人家周辺の里山に多く棲息していた関係で、ニホンオオカミもまた、人間と遭遇する機会の、比較的多い多い獣だったようです。

 そして、オオカミは、人間の暮らしを助けてくれる感謝の対象でこそあれ、恐怖の対象ではなかったことも、記されています。

 福島県における狼地名や伝承を見ると、わたしがよく歩きに行く、阿武隈の低山が舞台になっていることが多いのに、驚きます。
 ほんとうは、阿武隈の山には、オオカミの姿がなくてはいけないのだなぁ、と思いました。

 この本を読んでから、狼伝説のある、飯舘村の佐須山を歩きました。
 おかげで、佐須山の白狼伝説について、いろいろ考えながら、登ってくることができました。

(ISBN4-89757-300-9 C0045 P2000E 1994,9 歴史春秋社刊 1999,12 読了)