四手井淑子『きのこ学騒動記』

 きのこに関する本かと思って読み始めたら、えらい本でした。
 いや、確かに、きのこに関する本なんです。

 今まで、きのこの神秘さや偉大さに書かれた本は、いくつか読んできました。
 でも、正直言って、それらの本を読んでも、「読書ノート」を書いてみようという気には、ならなかったのです。
 凡庸な表現ですが、きのこについて書かれたいかなる書物も、きのこ以上にエキサイティングではあり得ないと思っていました。

 しかし、この本はちがうんです。

 きのこ学を志した主婦が、どのような思いで、きのこ学に取り組み、老親や配偶者や子どもたちと関わり合い、そしてすれ違ってきたか。

 小説家は、想像力を駆使して、人生という究極のテーマにぶつかっていきます。
 ところが、この本に書かれているのは、きのこ学に取り組む女性の目を通した、人生そのものです。
 事実は、小説よりも説得力があるといっては、言い過ぎでしょうか。

 戦禍をくぐり抜けてきたほどの人が、「生命とは大事なものではなく、やがてもてあますものである」と断じる文を読むと、自分の人生は、また生命はどれほどの価値を持っているのだろうと、考えこまざるを得ません。

 私は、何のために、生きているのだろう。
 私は、誰のために、生きているのだろう。
 私は、どのように生きて行くべきなのだろう。
 かなり深刻になってしまいます。

 でも、きのこについては、とても楽しい話がたくさん紹介されています。

(ISBN4-87525-096-7 C1045 P1700E 1983,3 海鳴社刊 1999,3,24読了)