辻谷達雄『山が学校だった』

 近畿の南の屋根、大峰山麓の山暮らしについての本です。
 古い時代から現場の山仕事(伐採・搬出・育林)に携わってきた著者による、仕事の内容や、請負システムについての語りは、とても興味深いものがあります。


 それとともに、この本は、林業の未来について、たくさんのノウハウを提言しています。

 古い時代の、職人芸と危険と重労働によって支えられてきた林業技術は、そのままの形では、継承できないでしょう。

 かといって、学者や役所が机の上で作った理論や技術には、魂がありません。
 魂がないというより、現実に即していなかったり、地域づくりや生態系の保全など、幅広い諸問題を考慮に入れていないことが多いと思います。

 現場の経験と発想に基づく山づくりができるようになれば、林業はもっともっと魅力的な産業になると思います。

 著者の語りは、明日の林業から、村おこしにまで到っています。
 次々にダムが造られて補償金が入り、箱モノが作られても、将来の見通しは明るくありません。

 現場での長年の経験に裏打ちされた発想の中からこそ、道は切り開かれるのだと思いました。

(ISBN4-89691-304-3 C0095 \1900E 1998,3 洋泉社刊 1998,8,20読了)