山田吉彦『ファーブル記』

 戦後まもなく出た本の復刊。
 児童書以外のファーブル伝は、この本がはじめてです。
 したがって、この本の評価も知らないままです。

 昆虫記を読めば、ファーブルが経済的に豊かな人生を送ったのでないことは、想像できますが、それは私が思っていた以上でした。

 貧しい人の学問への取り組みの記録は、とても勇気を与えてくれるものです。
 この本に描かれるファーブルの姿は、まさにそうでした。

 なかでも、彼の学問が理念から出発したものではなく、昆虫の精細な観察の上に成り立っていたことは、私にとって、とても力強く感じさせられる事実でした。

 よく見ることによってわかったことから、結論を出すこと。
 座学よりフィールドワークを。

 そうした彼の学問のバックボーンの一つに、ブナ林のきのこがあったことも、新知見でした。
 チチタケの類、イロガワリの類、ノウタケの類などがファーブル少年のまわりに生えていたようです。

 人間と自然とがますます疎遠になりつつある今、彼のパッションに学ぶことの意味が大きくなっていると感じます。

(ISBN4-00-416108-8 C0223 P550E 1993,7月刊 岩波新書 1997,12,24読了)