香山リカ『若者の法則』

 高校生を含めた若者が日常生活の中で直面している身近なトピックスの持つ意味について心理学の立場から解説した本。

 以前はよく、日頃つきあっている生徒たちについて、教員組合の仲間とじっくり分析したり、教育実践について語り合ったものだが、そんな機会がとんとなくなりました。

 最近は、生徒のさまざまな言動の意味とか彼らの文化に対し、興味を持っている教師がどれだけいるかとさえ思えます。

 少なくとも今の若者の多くは、高校なら高校という場の持つエトスに応じた表情を見せるすべを身につけています。
 1970年の空気を多少なりとも呼吸したわたしなど、今の高校にいたら、まず半年ともたないでしょう。

 校則は、公共の福祉を害してはいけないという範囲をはるかに超えて、「生徒はかくあるべし」と人格に対する縛りの側面を強くしており、その意図は、生徒の人間性形成というより排除の方向に強く働いているように見えます。

 いつ排除させられるかを常に意識しながら生活する日々が、どのような人格を形成させるかわかりませんが、青年期にそのような心理的ストレスを伏流させることが一種のトラウマにならないとは限らないでしょう。

 かといって、教師という仕事と自分の人格とがかんたんに「切り離」せるわけもありません。
 それができたら苦労はしないが、恐ろしいことです。

 こういう世の中では、いつも穏やかにしていること、なるべく話を聞いてやること、問いかけには必ず応えてやること、悪に対して毅然としていること、へつらわないこと、威張らないこと等々を心がけていることしかできなさそうです。

 生きにくい世の中ではあるが、自分の存在が多少の緩衝材になればいいと思うしかないです。

(ISBN4-00-430781-3 C0221 \700E 2002,4 刊 岩波新書 2006,2,7 読了)