上田紀行『生きる意味』

 生きる意味について考えるヒントを示唆した本。
 世界有数の自殺大国である日本がどのように国なのかについても、興味ある分析がなされています。

 ゾレン(あるべき姿)から生きる意味について説かれてもあまり役に立たないのですが、生きにくさの現代日本的特徴から説き起こされているので、わかりやすい。

 日本的生きにくさの原因は封建遺制ではなく、「世間」の意図に合致する存在であれと強いるエートスであったと著者は言います。
 日本社会の半封建性という問題については、歴史学が詳細に解明していたかに見えましたが、今ひとつつっこみが足りなかったのかも知れません。
 これは阿部謹也『日本人の歴史意識』が声を大にして指摘していることです。

 そのようなエートスが健在であるのに加えて、あらゆる面で世界を被いつつあるグローバリズムが、個人のありようを規定しつつあります。

 日本では「構造改革」という形で、「上からのグローバリズム」が進行しています。
 著者によれば、それは人間に、経済効率的存在たることを強いるとともに安住の場を奪って、疲労困憊と不安感へと陥れます。
 上からのグローバル化は人間に幸福も富をももたらさず、死屍累々たる「負け組」を生みだし、社会を不安定化させ、日本社会を分裂に追いやっていくでしょう。

 このような社会的環境のもとで、心の安らぎや充実した人生はいかにして可能か。

 著者は、人間的なコミュニティがそのカギだと述べておられます。
 なかでも、家族・職場・コミュニティの再生が、グローバリズムの嵐から身を守る防空壕のような役割を果たすのではないかと思われます。

(ISBN4-00-430931-X C0236 \740E 2005,1 刊 岩波新書 2006,2,3 読了)