田中淳夫『日本の森はなぜ危機なのか』

 輸入外材のために壊滅に瀕した日本の森林と林業再生の方策について、森林の特性を踏まえた上で各種の提言を行っています。

 日本の森林の危機の主たる原因が開発行為であると思われたのは、リゾート法がもてはやされた1990年前後でした。
 ゴルフ場やスキー場の開発、観光目的の林道開発のために森林が破壊されていた当時のことで、そのような認識は必ずしもまちがっていませんでした。

 人間が大事か、自然が大事かというステレオタイプ的な議論によって農山漁村が抱える構造的な問題から目を逸らさせられ、とりあえず目の前にあると思われたカネ(結局それは蜃気楼にすぎなかった)にむかって、まずは行政が突っ走り、人々もそのあとをついていったのでした。

 その結果は、ごらんの通りです。

 その一方で、もう一つの森林の危機が顕在化しつつありました。
 それは、放置された里山や人工林の荒廃という問題でした。

 カネの亡者たちによる森林破壊は、バブルの崩壊によってとりあえずストップしたわけですが、里山・人工林の荒廃はさらに進行しつつあります。

 この本には、グローバル化の波に洗われ瀕死の状態にある日本の林業を、いかにして活性化していくか、具体的で現実的なプランがいくつも提示されています。

 森林ボランティアに対する著者の醒めた見方(「山村の住民が都会の住民を森林で遊ばせてあげるボランティア活動」と定義する)には疑問がありますが、そのようなレベルでない森林ボランティアのあり方を模索していく上では無意味な指摘ではないと思われます。

(ISBN4-582-85133-9 C0261 \760E 2002,3 平凡社新書 2005,8,18 読了)