小川真『きのこの自然誌』

 きのこの生態について、縦横に語ったエッセイ。

 きのこ狩りについて語る本はもう読みたくないし、きのこの神秘や不思議について熱く語る本にもやや食傷気味。
 『都会のキノコ』もそうでしたが、きのことは何なのかについて、わかりやすく説いたこのような本が出てきたのはとてもよろこばしい。
 こういう本を読むと、生態系とはどういう関係性であるのかが、よりきちんとわかってきます。

 地生性のきのこの本体は地中にある菌糸塊であると理解はしているのですが、地上動物の悲しさで、どうしても地上に発生した子実体に目がいってしまいます。

 この本には、きのこは菌糸塊であるということが繰り返し書かれています。

 社会科学と自然科学のボーダーレス化に伴い、若い人に生態系とはなにかについて語らなければならない場面もときおり出てきます。
 そんなときには、きのこの還元者というようなことを話してきましたが、きのこの本体である菌糸が、生態系の中で果たしている役割とは、とてもそれに尽きるものではありません。

 地中におけるきのこのダイナミックな働きについて、若い人はまったく知らないと思われます。
 著者は、「自然を見て考えるという何万年にもわたる動作のつみ重ねが現代の文明を生みだしたということを忘れてはならない」と言っておられますが、その通りだと思いました。

(ISBN4-8067-2198-0 C0045 \1800E 2001,7 築地書館 2005,8,15 読了)