石井実ほか『里山の自然をまもる』

 以前から感じていたことですが、生物学者がしばしば「貴重種」という表現をします。想像するに、とてもめずらしい生き物、というような意味だと思います。


 裏山にゴルフ場ができたときの、環境影響評価(アセスメント)の概要に、「貴重種はゴルフ場内の一角に移植するから、問題はない」という一節がありました。
 これはどうも、貴重なものはだいじだが、貴重でないものはまあどうでもいい、というニュアンスがあります。
 貴重なものがだいじだということについては、もちろん異存はありません。
 でも、貴重でないものがどうでもいいとは思いません。
 さらに、貴重でないものをないがしろにするような言い方に対しては、いきどおりを感じます。
 どこにでも見られる植物や昆虫が見られなくなったら、それこそたいへんではありませんか。

 白神のブナ原生林が「世界遺産」として保護されることになったのは、とても喜ばしいことです。
 でも、私たちの身近な自然も、とても大切だと思うのです。
 一人ひとりの日本人にとって、守らなければならないのは、裏山の自然です。
 裏山こそが、日本人の心のふるさとだからです。

 桐生の奥に鳴神山という、かわいい山があります。
 この山の山頂近くに、「カッコソウ保存区域」という一角があります。
 かつて鳴神山に自生していたカッコソウは、植林や盗掘によって、絶えてしまったようです。
 現在の保存区域は、カッコソウを愛する人々があらためて植栽したものだそうで、ロープが張られたなかで、厳重に保護されています。

 落ち葉を持ち上げて花を咲かせるカタクリ、シュンランや、ニリンソウ、アズマイチゲ、セツブンソウなどは、いつ、鳴神山のカッコソウの二の舞になるやもしれない状態にあります。

 前置きが長くなりましたが、この本は、そうした里山保全の大切さと、具体策を提言していて、興味深いものでした。
 山林を管理するのは、人手や技術が急速に先細りしている現在、かなりたいへんになりつつあるらしいです。
 市民と山主と行政とが一体となって、里山をめぐる日本の文化と自然、そして地域を守っていかねばと痛感させられました。

(ISBN4-8067-2346-0 C0045 P1865E 1993,5 築地書館刊 1997,3読了)