椎名誠『白い手』

 椎名誠さんには申し訳ないが、スーパーエッセイストとしてはとてもおもしろい作品を書く人だけど、小説はおれの趣味には合わないな、といままで思ってきました。


 しかし、この作品はじつによかった。
 小学5年生とは、なんとすばらしい季節なのでしょう。ひょっとすると、人の人生でいちばん輝いているのは、5年生のときなのではないか、とさえ思ってしまいます。

 近所遊びにあきたらず、隣の校区まで遠征に出かける。
 悪ガキグループを構成して、小悪さをする。
 魚釣りに目覚める。(^^;)
 先生をバカにする。
 少し女の子を意識する。

 なんと。これこそ、人間たるものの基本はすべてここで作られるというべきではありませんか!
 椎名さんのこの小説の背景に、「昭和30年代」の風景がちりばめられているのも、うれしい。
 はじめてテレビを見たときの衝撃は、いまだ忘れられません。私も、あの衝撃を何とかかたちにして残しておきたいものだ、と思っているくらいです。

 ものはなかったけれど、自然と田んぼと、子どもの遊び場にあふれていた、なつかしくも美しい日本の風景。
 やはり日本は、あれ以上に進歩しなければよかったのだ、と思います。みなさんはどうですか?

(ISBN4-08-772693-2 C0093 P800E 1989,4月 集英社刊)