高遠菜穂子『戦争と平和』

 イラク拘束事件の当事者だった3人のうちの1人、高遠菜穂子さんの体験記と彼女のイラクでの活動の記録。

 この本を読んで再確認させられたのは、イラク戦争「後」のイラクに「支援」をおこなうことは、絶対に必要だということです。

 「後」とカッコをつけたのはもちろん、今も戦争が終わったとは言えないからですが、ブッシュ大統領による戦争終了宣言が出され、きわめてうさんくさい代物であるとはいえ、暫定政府が機能している(であろう)現状は、組織的な戦闘が継続している状態ではないのですから、「後」と表現したわけです。

 アメリカによって破壊された生活インフラの復旧はもちろん必要なのですが、もっとも緊急には、病人・けが人など緊急に医療措置を必要としている人々や、子どもを中心とする生活弱者への支援が必要なのです。

 にもかかわらず、こうしたイラクの現実は、日本人と日本政府の視野には全く入っていません。

 日本政府が、「国益」というコトバを煙幕にして、イラク占領軍の一翼を担っているのであり、イラク国民の生活や感情を感じ取ろうという気持ちなど、ひとかけらも持っていないことは、イラク人にもわかってきていると思われます。

 日本のマスコミが垂れ流すイラク情報は、アメリカ軍によるプレス発表そのままか、海外通信社から購入した情報ばかりなので、一般の日本人がイラクの現実を知る機会はほとんどないに等しいのです。

 高遠さんが担っておられるのは、まさにこうしたイラクの生活弱者への支援であるようです。
 このような活動に、もっと目を向けるべきだと思います。

 彼女は、アメリカに抵抗している自称ムジャヒディン(イスラム戦士)が家族や親しい人々をアメリカ軍に殺された一般市民であることを承知しつつ、暴力からは憎しみしか生まれないと述べています。

 これほど極悪非道な侵略戦争に対し無抵抗であることは、現在の世界をみるかぎり、結果的に暴力を容認することではないのかという気もします。

(ISBN4-06-212541-2 C0095 \1500E 2004,8 講談社 2004,11,26 読了)