前著の『井上伝蔵 秩父事件と俳句』同様、読みごたえのある本です。
前著は主として、井上伝蔵の俳句の鑑賞を通してその人物像に迫っていますが、こちらの本では、伝蔵がどのような文化的環境の中で育ったかについて、追究しています。
著者は、歴代伝蔵(伝蔵の名は代々襲名されていた)の俳句を、19世紀における地方と中央の俳壇の動向の中に位置づけ、伝蔵家の句風を明らかにしています。
そのことによってわたしのような素人にも、会計長伝蔵の句をより深く味わうことができます。
伝蔵の周辺に存在した二人の女性、井上直と田島梅子についての論考も、興味深い。
わたしは歴史屋ですので、状況証拠で史実を論じることはできません。
しかし、史実の背景となる状況を探究することは、十分に必要なことですし、愉しいことでもあります。
本書を読んで、直や梅子の生きた時代について、さらに学んでみたくなりました。
(ISBN4-87889-254-4 C0021 \2000E 2004,4 山と渓谷社 2004,8,26読了)