高野潤『インカを歩く』

 簡単な解説を付したインカ帝国の史跡の写真集。

 インカ帝国の最後については、ティトゥ=クシ=ユパンギ『インカの反乱』(岩波文庫)に概略が描かれています。


 『インカの反乱』を読んでいて気になったのは、全体としてはインカに属する王族及び民衆と侵略者ピサロ一族との戦いなのですが、ティトゥ=クシが民族的な抵抗を組織しようとしているというより、王族としての既得権の維持のために戦っていると読める言葉が随所に見られる点でした。

 ティトゥ=クシも、彼の父親であるマンコ=インカも、さまざまな局面でスペイン人と妥協し、部下の批判を受けています。

 それではなぜ、インカ内部で彼ら王族に対する徹底的な批判や反乱が起きなかったのか。
 ティトゥ=クシの述懐からその理由を読みとることはできません。

 この写真集に載っているインカの史跡を見ると、この国が、石の国だったことがわかります。
 嶮しい山岳地帯で暮らすには、石を積んで平面を作り出さなければなりません。
 それは日本も同じです。
 ちなみに、プレートの沈み込みにより山脈が形成されるという地形のなりたちも、インカと日本とはよく似ています。

 それにしても、インカの石積みは日本のそれよりはるかに大規模です。
 これは、卓越した技術と強大な権力をもってしなければ、とうてい実現不可能なはずだと感じます。

 インカ滅亡の遠因の一つに、民衆を圧伏させていたであろう専制権力の硬直があったのではなかろうかと思いました。

(ISBN4-00-430738-4 C0226 \1000E 2001,6 岩波新書 2004,8,25読了)