大館一夫『都会のキノコ』

 サブタイトルは「身近な公園キノコウォッチングのすすめ」とありますが、内容的には、キノコとはどういう生物であるのかについての概説といってもよいでしょう。

 きのこについての概論は、キノコ図鑑の巻末などに簡略にまとめられていますが、それだけではちょっと物足りない感じがします。
 入門者にもわかりやすい、きのこの生態学的な概論だと思いました。

 菌類に関する知識をもっと一般化すべきだという考えを、以前からもっていましたが、この本を読んで一段とそれを感じます。

 生産−消費−還元という生命リサイクルシステムの仕組みをはじめ、地下に存在するという菌糸ネットワークによって生命活動が円滑化されていることなどは、社会生活を営む人間として、きちんと知っておくべきです。

 個人的には、害菌による樹木被害が、結果的に森林を更新し、気候や地形に適合した、バランスのよい森林生態系をつくるという積極的な役割を果たしているという指摘に、関心を持ちます。

 林業も、人間による自然の改造である限り、反自然であらざるを得ません。
 たとえば、ナラタケ病の蔓延は、林業への脅威であるわけですが、そのような「被害」はその土地の生態系に合致しない植林であることの警告であるとも言えるわけです。

 そうすると、近年とみに爆発しつつある激烈かつ不治の感染症も、地球の生態系を矯正しようとする、人に認知不可能なものの配慮によるのかとも思われます。

 また著者は、菌類の生態を眺めるなかで、異なる生き物が共生(自分にないものを持ち寄る)することによって生き物の進化が可能になったという見方を提示しています。

 人間を生き物の頂点と見るかつての進化論にキリスト教のバイアスがかかっているのは明らかで、よりグローバルな生態観が求められています。

 地上には植物を中心とする生命の世界があります。
 これに対して地下には、著者が「地下の森」と呼ぶ、膨大な植物の根系と菌糸のネットワークが存在します。

 これなどわたしにとって、まさに目からウロコの、感動的な発見なのでした。

(ISBN4-89694-843-2 C0045 \1800E 2004,6 八坂書房 2004,8,25読了)