長尾三郎『激しすぎる夢』

 サブタイトルとして「『鉄の男』と呼ばれた登山家・小西政継の生涯」とあるように、著名な登山家・小西氏の伝記です。


 筆者は、植村直己や加藤保男の伝記も書かれているノンフィクションライターです。

 山岳文学のなかでも、山岳ドキュメントはもっとも魅力的なジャンルだと思います。
 聞き書きによる作品もありますが、自分の登山を振り返り、それを形にした作品を読んでいると、山登りのきびしさや奥深さの一面に触れることができます。

 山行のレベルはぜんぜん違っても、山に向かう姿勢などについて、このような本から学ぶべきところはたくさんあります。

 国内でもっともすぐれた山岳ドキュメントを書かれてきたのが、この本に描かれている小西政継氏だと思います。
 小西氏の作品の特徴は、よけいな主観や叙情をすべてそぎ落とし、人間の体力と技術の極限へ挑戦するという一点に焦点を当てて書かれているところです。

 高所登山にとって、1980年代とはまさにそういう時代だったのであり、それらの登山を組織しリードしてこられたのが、氏であったようです。

 1990年代は高所登山が一段と変貌した時代だったのですが、山岳雑誌などに疎かったわたしにとっては、高所登山など関心外であり、低山を中心とする山歩きを続けつつ、奥秩父における在来イワナの問題にのめり込んでいったのでした。
 ここ10数年の間に400回前後ほども山行を重ねていますが、今まで事故らしい事故に遭遇しなかったのは、山岳ドキュメントなどから山歩きの基本的姿勢について学んできたおかげではないかと思っています。
 その意味で、マナスルにおける小西氏の遭難は、たいへん衝撃的でした。

 自分の山歩きスタイルはもう、変えようにも変えられないと思いますが、とくに危険を伴う山行に際しては、氏の著作にあった基本的な姿勢は踏まえなくてはいけないと思っています。

(ISBN4-635-34017-1 C0095 \1700E 2001,8 山と渓谷社刊 2004,1,7 読了)