田中宇『イラク』

 国際関係ニュースの解説者による戦争直前のイラク見聞記。
 イラクとはどのような国で、イラク人はどのように暮らしているのかがたいへんよくわかります。

 アメリカは、フセインに支配されたイラクをなにゆえ転覆しようとしたのか。
 日本の自衛隊がアメリカ軍の手下としてイラクに侵攻しようとしている今、そもそもの戦争目的は何だったのかは、いまだにわかりません。

 「大量破壊兵器」云々については、アメリカやイギリスが事前に入手していた情報がガセネタだったことは、完全にばれています。
 だいたい、大量の核ミサイルや生物・化学兵器を保有し、劣化ウラン弾という核兵器を通常兵器として使用しているアメリカに、大量破壊兵器保持をなじる資格なんて、ないでしょう。

 「イラクの民主化」云々についていえば、民主的でない国はイラク以外にもいくらでもあるわけで、アメリカのおこなっているスパイ行為や謀略行為に比べれば、フセインなど子どものようなものでしょう。
 だいたい、「イラクの民主化」のために支払わねばならないコストは、手下である日本に一部を転嫁するにせよ、バカにならない金額ですから、能率悪すぎでしょう。

 筆者は、イラク戦争の目的が石油であるという見解にも否定的です。
 石油を安定的に供給させるには、独裁政権であれ何であれ、安定した政権であることが第一であるからだというのが筆者の考えですが、わたしは、アメリカがというよりブッシュやその取り巻きたちがイラクの石油利権を独占することが、究極の目的なのではないかと思います。

 今後、アメリカによって傀儡政権が樹立されることでしょう。
 しかし、この本を読む限り、イラク人とは、有能で誇り高く、人情の機微をも理解した、なかなか魅力的な人々のようです。
 したがって、たとえば日本がそうであったように、占領軍を素直に受け入れ、その後もずっとアメリカにへつらい続けるとは、とても考えられません。

 イラク人の素顔にふれてみて思われるのは、筆者が言うとおり、日本とはいったい何なのかということでした。

(ISBN4-334-03187-0 C0295 \700E 2003,3 光文社新書 2004,1,11 読了)