坪井伸吾『アマゾン漂流日記』

 改めて、地図を開いてみると、南アメリカ大陸の脊梁、アンデス山脈は、大陸の西海岸に沿って、南北に伸びているのですね。


 だから、大河アマゾンは、大陸を西端から東端まで、ほぼ横断する形で流れているのです。

 この本は、日本の若い旅人3人が、ペルーの渓谷から大西洋まで、イカダに乗って流れ下った旅の記録です。

 ここに書いてあるのは、探検記や冒険記というたぐいの記録ではないように思います。
 著者たちからは、未知なるものを求めて、あるいは前人未踏の記録のために、危険な行為に敢えて挑戦するんだというような、悲壮感というようなものが、ほとんど感じられず、どのようにしてイカダが下ったかということが、ユーモラスに書かれています。

 実際の旅は、文面で読むよりかなりたいへんなものだったと想像されますが、この人たちは、次々に展開する新たな事態に、楽しげに立ち向かいながら、流れを下っていきます。

 話は全然かわりますが、いま、学校などで育てている人間は、ちっとも使わない機能を満載したメーカー製パソコンみたいな印象を受けます。
 そんな人間は、想像もつかないような問題に直面したとき、マニュアルなしにどうやって処理していくのか、さっぱりわからないでしょう。

 イカダによる彼らの川下りにはもちろん、マニュアルは存在しませんでした。
 かなりやばい状況を迎えても、「ほほう!」と感嘆しながら、「まぁなんとかなるんじゃないか」と、それに立ち向かう著者らを見ていると、この人たちは、人間にとってもっとも根源的な能力=根性みたいなものを、ふんだんに持っているのだなぁ、と思いました。

 このような旅行記は、どれを読んでもそれなりに興味深いものですが、たとえば椎名誠氏のそれ(南アメリカだと『パタゴニア あるいは風とタンポポの物語り』『でか足国探検記』など)とくらべたとき、大いに共感的なのは、こちらの著者たちは、たいへん貧しており、貧した旅を自在に楽しんでいるという点でしょう。

 ちなみに、椎名氏は、この本のことを「突如的面白本」(『くじらの朝がえり』)と、高く評価しておられます。

(ISBN4-89625-015-X C0036 \1900E 1999,3 窓社刊 2002,1,30 読了)