根深誠『白神山地 立入禁止で得するのは誰だ』

 帯のキャッチコピーには、「『立入禁止』のウラに見え隠れする灰色の欲望 世界遺産ブランドに目がくらんだ偽自然保護論者を暴く!」とあります。

 これを見ただけでも、白神に行ったこともないわたしでさえ、白神はいったい、どうなっているのだろうか、と不安になります。

 白神山地の世界遺産地域(コアエリア)への立入禁止をめぐるきびしい対立については、以前から承知をしていました。
 この読書ノート(45)の鎌田孝一『白神山地を守るために』でも、少しふれてあります。

 根深氏のこの本は、氏が、新聞や雑誌に書かれたものを集めたものなので、問題について、系統立てて論じたものではありません。
 しかし、通読すれば、根深氏の側から見て、現在の白神にどのような問題があるのかが、つかめてきます。

 わたしなりに重要だと思うところをノートすると、以下の点に集約できるのではないかと思います。

 まず第一に、世界遺産地域に隣接する区域で、相変わらず続けられている、ブナ原生林の伐採と、スギ造林に歯止めをかけなければならないということ。
 コアエリアを保護するためには、隣接区域の保護に力を入れるとともに、失敗したスギ植栽地にブナを植え、ブナ林の復活をはかるべきだということ。

 第二に、従来から生活の一環として山を利用してきた地元住民を始め、自然の中で遊びたいという登山者や釣り人などを排除するのではなく、人間が自然とふれあい、そうした体験を通して自然から学び、自然と共生していくという道を探るべきであるということ。

 わたしも、ささやかな自然保護の活動につらなっていますので、白神から学ぶべきことがたくさんあると思っています。

 この本は、全体を通して、緩衝区域の貴重なブナを伐りながらコアエリアへの立入を禁止するという営林局と、コアエリアへの立入禁止を支持する自然保護団体への痛罵に、あふれています。
 このような抜き差しならない対立に陥った経過からも、学ばなければならないのは、残念というしかありませんが、それが日本の現状なのでしょう。

(ISBN4-88536-480-9 C0036 \1600E 2001,10 つり人社刊 2002,1,10 読了)