五葉山の夕暮れ
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ここもダム建設の真っ最中。ところどころ残った石垣をブルでならしている。
やりきれない光景だ。
イワナを一匹釣って、今晩のおかずにと、ザックに入れた。
Tさんとは初対面だったが、なんどもRESをかわしているので、初対面という感じはしなかった。
赤坂峠に私の自動車をデポし、少し下った大沢コース入口までTさんの車で移動。
金網でできたシカよけ用の扉をあけて、登山道に入ったのは、3時。
しばらくは牧場の中を歩く。
ガスが巻いていて、肌寒い陽気だったが、うれしいことに、登りはじめるときには晴れて、五葉山があらわれてくれた。
ヤマツツジやアオダモの花がとてもみごとだ。
林道や牧場のへりにはヤマツツジが非常に多く、とても美しいが、林の中にはほとんど見られない。
Tさんと、この花は、木を伐ったあとに生えるのではないかと話しあった。
登山道周辺には、わらびがすこぶる多く、山菜摘みの人もいた。
牧場を過ぎると、大沢源流を見下ろすところ。
魅力的な瀬音に惹かれて、思わず二人して川をのぞく。
赤坂峠のズミ
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赤坂峠のヤマツツジ
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「なかなか水量ありますね」
「いるでしょうね」
「うん。いるでしょうね」
あまり時間がないので、ここは当然、渓を見るだけ。
左手のガケにウドが出てないかと思ったが、もう遅いのか、細いのしか見あたらなかった。
伐採地を過ぎると、国有林地内となり、美しい新緑トンネルの中の道。
源流なのに水量豊富な大沢べりに建つ、大沢小屋前で小休止。
ヤマブドウのつぼみがふくらんでいた。
ミヤマウグイスカグラは、埼玉ではすでに実になってしまい、先日酒に漬けたところだが、ここではまだ花。
落ち葉の上には、モリノカレバタケが数本、頭を出していた。
なんだか、とてもうれしい。
その先は、右手の尾根にとりつき、ジグザグ登り。
見たところ、ブナやミズナラの二次林だが、ときおり大木が混じっている。
数世代の樹木が同居している感じの林。
ヤブが少なく、秋のキノコ狩りには好適そうなところだ。この山の管理人をされていたKさんにあとで聞くと、シカが増えたせいだそうだ。
このあたりにはミヤコザサもほとんど生えていない。リョウブにシカの食痕が一ヶ所見つかった。
けっこう疲れてきたころ、ピンクのツツジが多くなった。ムラサキヤシオだ。
オオカメノキの白とムラサキヤシオのピンクのトンネルをしばし行くと、あちこちにアスナロの幼木。
斜面に生えているのだが、まっすぐ立っているのはほとんどないので、明日になってもヒノキに追いつけそうには見えないが、けんめいに頭を持ち上げていた。
細い水流を見るあたりに、ミズナラの巨木。
この山行で見た中で、いちばん大きな木だった。
かなり年老いてはいたが、まだかくしゃくたるものだ。
そばには、クリンソウの小群落。ようやくトウがたったばかりで、花が開いてなかったのは残念。
傾斜がゆるむと、畳石の広場だった。
水場に行くと、細いわき水があったが、味は今一つ。
ここからは、もっとも登られているコースらしく、ところどころの樹木に営林署でつけたプレートが下がっていて、にぎやかな感じ。
明るいうちに小屋に着ける見通しがついたので、ゆるゆる登る。
足元の草陰には、オオバキスミレがぽつぽつ咲いていた。
七合目を過ぎると、樹林の切れ目から三陸の海がのぞけた。
祠のあるところには、アスナロやハクサンシャクナゲの群落。シャクナゲのつぼみはまだまだ堅かった。
アスナロは一部ネズコと混生しているそうだ。
ダケカンバやゴヨウマツも多くなる。ゴヨウマツは、地面を這っているので、一見、ハイマツと変わらないように見える。
山頂に近づくと、丈の低い灌木帯。ミネザクラがちょうど満開だった。
石楠花荘に着いたのは6時だったが、夕陽がまだ残っていたので、小屋に荷物をおいて、ビールとカメラだけ持って展望絶景の山頂へ。
わずか千三百メートルの山なのに、目の下は、雲海。頭だけ見える早池峰が、それほど高く感じない。
足元には、ガンコウラン、コケモモ、這っているゴヨウマツなど。
雰囲気的には、関東・中部の二千メートル級の山をしのぐ。
冷たい風が吹いていて、とても寒かったが、ビールは、やっぱり山頂で飲むのがいちばんうまい。
石楠花荘はほぼ山頂直下に建っているのだが、大量のうまい水がわいている。
どこかからポンプで汲み上げてるのかと思うくらいだが、Kさんに聞くと、れっきとした湧き水だそうだ。
その夜は、Tさんと飲みながら、川のこと、山のこと、ボード上のうわさ話などしながら、休んだ。
明け方には、けっこう寒くなった。気圧はそれほど下がらなかったのに、ガスと霧雨のあいにくの夜明けだった。
これではつまらないので、早々に下山することにした。
霧雨に煙る山も悪くはないが、ヤマツツジ咲く赤坂峠までは1時間と少しで着いてしまった。
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