花いっぱいの谷川連峰
−初夏の朝日岳−

【年月日】

2010年6月12〜13日
【同行者】 合計8名
【タイム】

6/12 土樽(8:56)−林道終点(9:40-9:47)−東俣沢出合(10:13)
   −蓬峠(12:10)−七ツ小屋山(12:54-13:15)−清水峠(13:52)
6/13 清水峠(3:57)−ジャンクションピーク(5:30)−宝川分岐(5:44)
   −朝日岳(5:48-6:04)−笠ヶ岳(6:52-7:03)−白毛門(7:41-8:00)
   −松木沢ノ頭(8:25)−標高1200メートル地点(8:55-9:05)−土合駅(10:03)

【地形図】 土樽、茂倉岳、水上 ルート地図

キクザキイチゲ
至るところに咲くミツバオウレン
一日目(土樽〜清水峠)

 谷川連峰は、尾根は終始展望がよく、高山植物も美しいので、難点が思い当たらない。
 しいて言うなら、脊梁山脈であるため、気象の変化が激しく、油断ならないところくらいか。
 2年前はまれに見る快晴の谷川岳を楽しむことができたのだが、梅雨入りを間近に控えたこの時期に、2日間よく晴れるなんて、同行者たちの日ごろの行いがよほどよかったとしか、考えられない。

 前回より早い5時過ぎの電車でのアプローチもよかった。
 おかげで土樽駅の出発を約2時間も早めることができ、1日目の行動にずいぶん余裕ができた。

 この時期の土樽はいつ来ても同じようだが、少しずつ異なっている。
 川べりをタニウツギ・サワグルミ・ニセアカシアの花が彩っているのは同じだが、今回はキリの花を見なかった。ハクウンボクが大量に落花しているのは、この前も見たような気がする。
 エゾハルゼミの声はいつもどおりだが、サカハチチョウがいくつも飛んでいるのは、初めてだった。

 気温が高く、最初の林道歩きで早くも、大汗をかいてしまった。
 どういうわけか、若い同行者たちから、少しずつ離される。
 先週も山に行ったので、その疲れが残っているのかもしれないと思った。  林道終点からの2ピッチ目では歩き出しからいきなり、おいていかれた。
 いつもであれば、自分のペースになればいつの間にか追いついてしまうのだが、この日はあっという間に、みんなの話し声さえ聞こえず、まるで単独登山をしているかのような状態だった。
 自分ではいくらか無理してペースをあげているのだが、どんどん離されて、小尾根へのジグザグ登りになった。

 ここからは、足元にイワカガミやアカモノ、樹下にはムラサキヤシオやタムシバが咲いていて、見るべきものの多いブナ林なのだが、足元以外は何も見ないで、ひたすら登った。
 いつも小休止をとるカーブのところまで行けば休めるかと期待していたのだが、そこに同行者の姿はなく、さらにずっと登った先の道ばたでようやく、待っていてくれたパーティに追いつくことができた。
 とはいえ、ここまでの歩きで疲労困憊しており、この日のうちに回復するのは無理ではないかと思われるほどだった。

 トラバースに入ると森林限界を超えて、まもなく第一の雪渓。
 崩壊がかなり進んでいたが、最短ルートで渡るのが無難と思われた。
 このあたりは、顔を出したばかりのフキノトウも見られて、いかにも雪解け直後という風情だった。

 シラネアオイ・キクザキイチゲ・オオバキスミレ・シロバナノヘビイチゴ・ショウジョウバカマなどを愛でながらまもなく、蓬峠の水場。
 水を補給してひと登りで、蓬峠だが、一昨年は黄色かった蓬ヒュッテが青く塗り替えられていた。

シラネアオイ咲く稜線
シラネアオイ(大きな写真)

 蓬峠からは、展望絶景の尾根道で、微風も吹いていたから、快適そのものだった。
 タテヤマリンドウ・シラネアオイ・ミツバオウレン・ツマトリソウ・イワカガミ・カタクリなどが足元に咲き乱れ、背後には谷川連峰の核心部、右前方には朝日岳や笠ヶ岳、左前方には怪峰大源太山がそびえていた。

 最後の登りを頑張れば、七ツ小屋山。
 足元の黄色い花は、ミヤマキンバイだ。このあたりは、オオバキスミレとミヤマキンバイの群落が交互に出てきてにぎやかだ。

ナエバキスミレ咲く
ナエバキスミレ(大きな写真)

 少し登って大源太山の分岐を過ぎれば、なだらかな尾根の鞍部に清水峠のJR巡視小屋と白崩避難小屋が見えた。
 ゆっくり下って小屋に着いたのは、まだ2時前だった。

 群馬側の水場に行ってみたが、水流の手前が急傾斜の雪渓になっていて、スリップしたら危なそうだったので、新潟側の水場を利用した。
 新潟側の水場は遠くて足元が悪く、雪で寝た木が道をふさいでいたが、危険はまったくなく、途中にイワカガミやシラネアオイの群落もあったので、楽しみながら水汲みができた。

イワカガミ大群落(大きな写真)
イワカガミ

 米を研ぎ、切った野菜を煮てカレー作りをしていたら、三人づれの登山者が「あなたたちのような人が来ると困る」と苦情を述べてきた。
 年少のパーティが清水峠に来ると何で困るのか、最初は理解できなかったが、やりとりをしているうちに、白崩小屋をあてにしてテントもツェルトも持たずに来たのだが、年少者主体のパーティが先に小屋に入ったために泊まれないと思って、いろいろと言ってきたものらしかった。

 白崩小屋は収容人数10人程度だということは、各種登山資料に記載してある。このように小さな小屋は、泊まれないことも多いから、テントかツェルトを持参するのは常識だ。
 それを指摘すると、「自分たちはあなたたちと違って年配なのでそんな荷物は持てない」などと言っていたが、谷川連峰は、ツェルトも持てないほど弱い人が来ていい山ではない。

 「あとから来た外人登山者をどうするつもりか」とも言っていたが、外国人の人はあとで、「自分たちは小屋の外で寝るつもりだった。譲ってくれてありがとう」と言ってくれた。
 三人づれの一人は、「こちらの言い方が悪かった。申し訳ない」と謝ってくれたが、あとの二人はふてくされたままだった。
 登山者としても失格だが、あれは、大人として恥ずかしい態度だった。

 そのやりとりが続いている間にも、カレーは着々と煮えていた。
 カレー材料の野菜は、畑で獲れたものばかりで目分量だったが、かなり多かった。

 ご飯は、8人で6合炊いた。  テントを張ってから食事にしたが、いつもながらカレーは、とてもよくできていた。
 ご飯は、7合炊いても食べきれたかもしれないが、まずはちょうどよかった。

 日が長いので、年長者で四方山話をしているとすぐに、7時前になった。
 気がつかなかったが、靴下を脱いでいるうちにブユに足を刺されて、あとでとてもかゆくなった。

 例年より気温は高く、夜の間、寒さはまったく感じなかった。
 夜更けから明け方まで、カッコウがひっきりなしに鳴き続けていたが、よく疲れずに鳴き続けることができると感心した。
 それ以前に、何のために夜中じゅう、「カッコー、カッコー」と叫んでいなければならないのか、さっぱりわからない。
 自然には、わからないことがとても多い。
 明け方には、ホトトギスも鳴き始めたが、これは夜が明けるということを言っているのではないかと思う。

 2時ごろトイレに起きてみると、濃いガスがおりていて、好天は望めなさそうだった。
 それでも食事を作ったりしているうちに大烏帽子山や檜倉山あたりの空が白んできて、雲の切れ間ものぞきはじめた。

 4時前に清水峠を出発。
 大烏帽子岳や檜倉山あたりがしだいに明るくなってくる。
 高度を上げるにつれて、ガスが晴れ、周囲の展望も開けてきた。

 湯檜曽川を遡行してきたガスが清水峠を越えて、登川を下っていく。
 その向こうには大源太山の岩壁がすさまじい。

 長いが一本調子の登りではないため、疲労感はさほどなく、ツーピッチでジャンクションピークを超えて朝日岳に着いた。
 ジャンクションピーク前後は、シャクナゲがちょうど見ごろで、たいへんみごとだった。

朝の大源太山
朝日岳山頂から谷川岳を望む(大きな写真)

 快晴ではないが展望も開けてきて、巻機山や谷川本峰方面だけでなく、八海山や中ノ岳、燧ヶ岳、至仏山、尾瀬笠ヶ岳、男体山と奥白根山、武尊山などが望まれた。

 朝日ヶ原は広い雪田状態で、上部から少しずつ融雪が進んでおり、木道は完全に通れる状態になっており、ユキワリコザクラやショウジョウバカマが点々と咲いていた。

アズマシャクナゲと遠く魚沼三山
シャクナゲの海を行く

 朝日岳の山頂はその上の小さなピークで、チングルマやホソバヒナウスユキソウの咲く、展望のよいところだった。
 山頂表示板のわきには、地蔵の石仏がおかれていたが、古いものかどうかはわからなかった。

ホソバヒナウスユキソウ咲き始め(大きな写真)
ミネザクラ満開(大きな写真)

 笠ヶ岳までは小さな登り下りを繰り返しながら、長く下る。
 ほんの少し、写真など撮っていたら、下りなのにまた、おいていかれた。
 同行者たちがはるか向こうに行ってしまったので、必死になってあとを追う。
 おいていかれるのは閉口だが、歩くのが速いのはけっこうなことだ。

 笠ヶ岳への登りは実際、たいしたことがないのだが、疲れているためか、ずいぶん長く感じた。
 予定よりずいぶん早いので、ここでゆっくり小休止。
 白毛門へは、急降下と小さな登り返しを繰り返しながら、下っていく。

 このあたりでは、シャクナゲだけでなく、ミネザクラが満開だった。
 雪も遅くまで残っていたようで、イワナシやショウジョウバカマが、いいあんばいに咲いており、食べごろのコシアブラも見つかった。

 白毛門は森林限界上の最終ピークなので、少し長めの休憩をとった。
 正対する谷川本峰は、もやが濃くなってきたため岩壁の迫力に欠けたのは残念だったが、背後の朝日岳・笠ヶ岳はまだ鮮明に見えていた。

ショウジョウバカマ満開(大きな写真)
白毛門から朝日岳・笠ヶ岳を振り返る

 ここからの下りは、地形図で見てもうんざりするほど急傾斜だ。
 最初から鎖場まじりの急降下で松ノ木沢ノ頭。
 これを過ぎると、樹林帯に入る。陽射しはさえぎられるが、風がないので、すこぶる暑い。
 草花もずいぶん少なくなって、イワウチワもほとんど咲いていなかった。

イワナシも多い
イワウチワは少なかった

 半ば以上下るとネズコの大木が多くなる。
 登山ガイドには、樹相については書かれてないので、ここで大ネズコを鑑賞できて得した気分だった。
 標高1000メートルを境に、下部ではブナが出てくるが、基本はネズコやヒメコマツの針葉樹林だ。
 一番最後はブナの二次林だが、下りきるまで、徹底的な急降下だった。

ネズコの道1
ネズコの道2(大きな写真)

 東黒沢を渡るとすぐに車道だったが、ここで近道しようとして少々ロスタイム。
 それでも、10時過ぎに土合駅に着くことができたおかげで10時18分発の臨時列車に乗ることができ、13時半に秩父に戻れたのには、びっくりだ。

 天気にも恵まれたが、最も年少の仲間がついていける限りは、早く歩くに越したことはない。
 みんながどんどん強くなるのは、頼もしい限りだ。