初秋の蓬峠越え

【年月日】

1996年8月24日
【同行者】 2人
【タイム】

土合(5:45)−武能沢(7:55)−蓬峠(10:10)
−東俣沢(11:20)−土樽(12:20)

【地形図】 水上、茂倉岳、土樽

 土合駅あたりは霧雨もようで少々寒いが、雨具が必要なほどではなかった。
 林道にはいるとすぐに西黒沢を渡る。

 このあたりには林道キャンパーがそこここにいて、ゴミの山があちこちにできている。
 食ったり飲んだりしたものを、そのまんま道路において帰るというのは、どういう神経をしているのかね。

 マチガ沢を渡る手前で林道が終わり、山道。
 この道は刈り払いが行き届いていて、とても歩きやすい。

 樹間から見える湯檜曽川は、広河原の中の浅く貧相な流れだ。
 それでもサオを振る釣り人がいる。

 一ノ倉沢をあやしい丸太橋で渡ったところで小休止。
 樹林帯なので花は少ないが、久びさにカメバヒキオコシのむらさき色を見た。

 ここから幽ノ沢にかけてはミズナラやブナの原生林。
 とても気持ちがよい。

 道ばたに根回り数メートルはあろうかと思われるミズナラの巨木。
 すばらしい木だ。
 樹齢は数百年を数えるだろう。
 このミズナラと記念写真。
 いつまでも元気でいてほしい。

 この先、ブナの倒木が多い。
 丹念に見ていくと、キクラゲが出ていた。
 キクラゲを摘みながら、静かな登山道を行く。

 幽ノ沢の先で炭焼き窯のあとを見る。
 こんなところにも人の生活のあと。

 芝倉沢の手前で国鉄の給電所を見た先も、ずっと平坦な道。

 土合駅の様子からすると、今日も谷川岳は大混雑と察せられたが、蓬越えの道はとても静かだ。
 追いつ抜かれつしたのは、ヘルメットとバイルをザックにぶら下げた屈強な若い男女三人パーティと、MTBに乗った青年だけだった。

 武能沢出合で二度目の小休止。
 若者パーティはパッキングを解いて遡行の準備を始めた。
 荷が多いから、湯檜曽川の本谷に向かうのか。
 このパーティ、口数が少なく、だれもいばっていない。
 金物やスリングをそろえる様子から、遡行前の緊張感が伝わってくる。
 かれらの遡行が実り多いものであることを祈らずにいられない。

 ここからは沢を離れ、ブナの壮年林の中の登りとなる。
 巨木というほどの木はないが、よいところだ。

 かなり傾斜はあるのだが、ジグザグ道なので、楽ちんだ。
 どんどん高度が上がっていくと、背後の樹林がときどき切れる。
 うしろには、笠ヶ岳や白毛門がそびえているのが見えるはずなのだが、今日はガスの中。ここはちょっと残念。

 しだいに雨が激しくなってきたので、雨具を羽織る。
 足元にミヤマクルマバナのピンクがめだちはじめた。

 土合への旧国道を分け、送電鉄塔を二本見て過ぎると、尾根上の道となり、白樺避難小屋。

 群馬県側は明るいのだが、あたりは小雨。
 この小屋はわりに新しい感じだが、板の間がないので殺伐としている。
 谷川連峰の避難小屋はいかにも避難のための小屋という感じの施設ばかりだ。
 もっともそれで十分だ。

 ここでひと息入れていると、MTBの青年がだまって入ってきた。
 ミヤマクルマバナの咲く登山道をMTBで走ってもらいたくない気がしたが、この青年、見るからにバテている様子だった。

 避難小屋の前には武能沢の源流が十メートルほどの滝を数段にわたって懸けている。
 なかなかすばらしい。

 道はふたたび山腹をからみ、四本の小沢を渡る。
 このうち、いちばん水流の多いのはいちばんはじめの沢だった。
 雨中ながら、ここは湿性お花畑でなかなか美しいところだったので、水の補給を兼ねて、しばらくのあいだお花見。

 ここに咲いていたのは、ミヤマキンポウゲ、クロバナヒキオコシ、オニシモツケ、モミジカラマツ、コゴメグサ、トリアシショウマ、ヤマブキショウマ、ヨツバヒヨドリ、オオバギボウシ、イワショウブ、タテヤマウツボグサ、オニシオガマ、エゾシオガマ、オオバミゾホオズキ、クガイソウ、ヤマトリカブト、キンコウカ、ニッコウキスゲ、シラネニンジン、ミヤマクルマバナ、オタカラコウなどだった。

 このうち、クロバナヒキオコシ、オタカラコウ、オニシオガマあたりはようやく咲き始めたばかりのようだったので、これからでも楽しめるだろう。

 「最後の水場」という看板のある四本目の小沢を過ぎると、ササ原の尾根はすぐで、オヤマリンドウやハクサンフウロが足元にちらほら見え出すと、壁と屋根のない蓬峠避難小屋。そのすぐ先が蓬ヒュッテだった。
 展望はもちろん皆無。

 ここで十時過ぎ。
 土樽発上り列車は十二時半前の発車なので、ちょっと苦しいが、間に合わないこともない。
 間に合わなくてもことさら不都合はないのだが、帰宅が三時間遅くなると疲れの残り方がちがう。

 そんな話をして、ここは下山にかかる。

 残雪の残りぐあいがちがうせいか、新潟側は群馬側にくらべて花の数も種類も少ない。
 ただシモツケソウは群馬側では見なかったような気がする。

 最初の水場を過ぎると早くも樹林帯。
 こちらの方が下山向きのようだ。

 ブナの壮年林で風情は悪くないが、群馬側ほど立ち枯れや倒木がなく、すっきりしすぎる森だ。

 新潟側は寒冷前線の背後にはいるので天気はよいと思いきや、予報に反して雨足がずいぶん激しい。
 一時間少々で東俣沢の出合。雨模様で休む場所とてないから、先を急ぐ。

 ここからは蓬沢の右岸沿いの道になるのだが、クサコアカソやミヤマイラクサの草ヤブがおおっていて歩きにくい。

 ヤブ道をしばしで林道の終点。
 何かの工事中だが今日は休みのようだ。
 道路は重機が通るので登山者は道路のわきのヤブ道を通れという看板が立っている。

 「国境の長い尾根を下りてくるとそこは土建屋天国だった」というパロディが頭に浮かんだ。

 ほどなく関越トンネルの出口が見えてくる。
 以前茂倉新道を下山してきたときには、今の土樽パーキングエリアのあたりに下りついたような気がするが、変化が激しすぎて、記憶が戻ってこない。

 ここで十二時過ぎ。
 でもここから駅まではけっこう遠くて、最後は雨の中の駆け足でぎりぎりセーフだった。

 土合に戻ってみると、青空少しがのぞいており、さわやかな秋の風が吹いていた。