2日目
出発前にまた尾根へ登ってみると、朝焼けが気にはなったものの、この日もまた穏やかに晴れていた。
重荷を背負い直して竜ヶ岳の巻き道を行く。
泊まり場近くの登山道には、石畳が敷かれていて、これはいつ頃のものなのか、興味をひかれる。
相変わらずブナ・ウラジロモミの鬱蒼とした森が続き、五感が癒される道が続く。
ヒガラ・メボソムシクイ・ルリビタキの声だけが聞こえる。
道わきに一本、周囲を圧する大ヒノキがあって、感銘を受けた。
ブナとウラジロモミの森
| 大ヒノキ
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柏木への分岐は、女人結界のある阿弥陀ヶ森。
さらにしばしで、脇ノ宿あとの小広場。
広場の中央にウラジロモミの大木が生えている。
ゆるく下っていくと、前方に大普賢岳に連なる岩壁の一角が見えてくる。
昔の行者も、こういう景色を見て気を引き締めたのだろう。
脇ノ宿跡の大ウラジロモミ
| 経筥岩近くから大普賢岳の一角を望む
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見た目は凄いが、登山道は、傾斜のゆるい尾根の西側につけられているので、シャクナゲの中の伐り開きを坦々と登っていく。
尾根が広がり、不鮮明になったあたりに、経筥(きょうばこ)岩への分岐。
経筥岩とはなんだろうか。
踏みあとに従い、尾根の縁から木の根伝いにずり下ると、大岩に四角い彫り込みがあるのだった。
荷を背負い直して少し登ると小普賢岳だが、いつの間にか周囲はガスに覆われ、目の前の大普賢岳も見えなくなってしまった。
和佐又からの登山道を分けると、大普賢岳。
展望雄大なはずだが、ガスのため、今ひとつ、すっきりしなかった。
とはいえ、これから向かう行者還岳あたりは、どうにか見えていた。
カエデの道
| 巨岩を抱くヒノキ
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国見岳へは、尾根の北側を下り気味に行く。
ササの下生えの中、オオイタヤメイゲツの壮年木の林が美しい。
ここが紅葉したら、どんなにみごとだろう。
登山道は国見岳の南を巻いていく。
山名からして絶景が得られるかと期待して、山頂に登ってみたが、残念ながら展望なし。
シャクナゲ・ヒノキ・ウラジロモミ・リョウブに囲まれたピークだった。
このあたりがこのコースの核心部で、鎖場を下って岩壁をトラバース。
通過し終わったところに大岩を抱くヒノキがあり、稚児泊の小広場を過ぎると、また尾根が不鮮明になる。
七ツ池(鬼ノ釜)はちょっとした二重山稜で薄暗いところ。
七曜岳手前に出ると尾根の上で、一気に明るくなる。
ガスが晴れ、目の前はバリゴヤの頭で、ギザギザの稜線が威圧的だ。
足元にはタカネママコナが咲き、ちょっとほっとする。
七曜岳はピーク上に岩があって大普賢岳方向が見える。
先ほどのガスはほとんど晴れたのだが、大普賢岳にまとわりつくガスだけは晴れてくれなかった。
タカネママコナ
| 行者還岳山頂
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少し下ると、無双洞経由で和佐又に下る分岐。
疲れはないが、ここで小休止。
その先も風情のよいカエデ林だが、ヒメシャラやウダイカンバも混じり始める。
昭和40年5月に遭難した学生の碑を見ると、明るいブナの疎林になる。
ゆるく登っていくと、行者還岳の分岐。
ブナの点在するササの斜面を登っていくと、行者還岳。
三角点は展望皆無だが、絶壁になったピークの南からは、足もとの行者還小屋から弥山、さらに奥駈道中部の峰の連なりが一望できた。
トリカブト咲く尾根
| ヒラタケが出ていた
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山頂から南へ下る道が見あたらなかったので、来た道を戻り、先ほどの分岐から巻き道に入る。
鎖を交えた急降下で行者還の水場。
ここは小屋の水源をも兼ねているようだが、水量はたいへん細く、十分な水を汲むにはやや時間がかかると思われる。
水場からは平坦な道を少しで、行者還小屋だった。
ここは、ほんとに無料で泊まっていいのかと思われるほど、豪華なログハウスだった。
小屋には、トイレや流しまで完備されていたが、水道は煮沸利用のことという注意が書かれていた。
小屋から少し南に行くと、天川出合。
「電線路安全 通行人安全」と彫られた地蔵が祀られている。
カエデとブナの穏やかな道を登降していくと、ヤマトリカブトの群生地を通ってミゾホオズキやソバナの咲く西側のトラバース。
このあたりから植生が少し変わった気がする。
行者還トンネル西口への分岐には、シナの木出合と記された道標が立っていたが、周囲にそれらしきシナはなかった。
その先しばしで、一ノ垰。
ここの避難小屋は、窓が破れ、入口の戸や床がないばかりか、内部にはゴミが散乱しており、今にも倒壊しそうで、全く利用不能。
行者還トンネル東口への分岐には、東口まで40分、ナメゴ谷橋まで1時間、天ヶ瀬まで2時間20分と記してあった。
ここから弥山方面へは、尾根の北側を行く。
奥駈出合まではすぐだった。
鈴の音がにぎやかに聞こえてきたと思ったら、30名ほどの団体ツァー客が登ってきたので、しばし待機。
添乗員らしき人がここで飴をなめろなどと指示していた。
弥山へ安易に登れさえすればよいのだろう。
まったく理解に苦しむ人々だ。
出合からトンネル西口までは、小1時間ほどだった。
小坪谷をのぞくと、アメノウオが泳いでいたので、毛鉤を振ってみたが、見向きもされなかった。