尾ノ内沢から西岳

【年月日】

1996年7月19日
【同行者】 単独
【タイム】

尾ノ内林道(5:00)−井戸沢出合(7:00)−油滝(9:20)
−龍頭神社奥社(10:35)−西岳(11:05)−鉄塔あと(13:15)
−坂本(13:45)−尾ノ内林道(14:10)

【地形図】 長又、両神山

油滝

夢見台からの展望

 国道二九九号線の二子山登山口の少々手前、尾ノ内集落に竜頭神社という神社があり、かたわらに「八日見山入口」と彫られた石碑が建っている。

 ここが赤平川と尾ノ内沢の出合。
 かたわらには、「尾ノ内沢コースは難路で遭難のおそれがあるので初心者ならびに単独者の通過は禁止」という看板。

 以前はここから山道がはじまっていたらしいが、現在は奥地の伐採のため林道を延伸中。
 渓谷の破壊はこの春に来たときより一段と進んでいて、新しい広場が造成されていた。

 しかたなく、ここから入渓。
 川の中には土砂が入っていて、渓相はよくない。

 しばらく行くと、八メートルほどのちょっとりっぱな滝。
 これが一合滝か。
 滝壺まで行ってみたが、淵は土砂に埋まっていて、たいしたことはなかった。

 井戸沢の出合を過ぎると、水量がずいぶん落ちてくる。
 ここは、ちょっとしたゴルジュなのだが、登山道に登って巻いて過ぎた。
 右岸からは十五メートルほどの細滝が落ちている。
 この巻き道にはケルンがあって、そばに御幣の下がった小さい祠があった。

 尾ノ内沢道はところどころ崩壊してわかりにくくなっているが、踏みあとはおおむね明瞭だ。

 スズノ沢を分けると、水量がさらに少なくなる。
 ここから先は、踏みあと通し登った。
 二段十メートルほどの滝を見ると、傾斜がきつくなって来、キギノ沢を分けると、沢は源頭の様相となる。

 ここには「小鹿野町 尾ノ内埼玉県自然環境保全地域(特別地区)昭和53年度」というりっぱな看板が立てられているのだが、沢の左岸側(北側)は大伐採したばかりで、はげ山になっていた。

 やがて、沢に縄を渡して御幣を下げてあるのが見え、細いながらもなかなか美しい油滝。
 登山道はここから沢を離れ、おそろしく急な斜面を登っていくようになっていたので、ゆっくり休んだ。

 ジグザグに高度をあげていくと、地獄穴らしき岩穴。
 急登はそれ以後も続き、御幣の下がった展望台(シメハリバ)あたりでは、十分に一回くらい休まないと息が切れてどうしようもなかった。

 シメハリバからしばらくはトラバースで、ヒンマワシだと思われる水場を横切る。
 ここは稜線直下なのだが冷たい水が流れていて、とても助かった。

 ここからはさらに急な登りとなり、トラバース以外はほとんど垂直と思える登りが続く。
 キンササゲだと思われる水流のないルンゼを渡ってからは、クサリの下がった垂直な泥壁をひたすら登る。

 コマドリやアカハラの声が聞こえるが、最近になくバテてしまった。
 ヒノキやシャクナゲの根をたよりの登りがひとしきり続いた末に飛び出したのは、竜頭神社奥社の建つピークだった。

 晴れてはいるが、もやがかかっていて、奥秩父の主脈などはうっすらとしか見えていなかった。
 登ってきた方と反対側の谷は八丁沢だが、八丁沢を遡行してきたときも、たしかこのあたりに登りついた記憶がある。
 岩稜の山なので花は少なく、コキンレイカやホツツジが咲いているくらいだ。

 ここからしばらくは、クサリの完備された八丁尾根縦走路だ。
 一般コースというだけで、精神的にとてもらく。

 いったん下ったところが風穴。
 天然エアコンの風が吹き上げる。
 とても涼しい。
 そこからひと登りで西岳だった。

 ここからの下降は尾ノ内沢コースよりはるかに困難だ。
 第一、踏みあとがほとんどない。
 それに、とんでもない急下降だ。

 かすかに感じられる踏みあとを、立木や木の根にすがって下っていくと、イワカガミの小群落。
 たぶん、埼玉県内でいちばん標高の低いところにあるイワカガミ群落だろう。

 地図とコンパス、樹林越しのルート判断をくり返しながら、尾根をはずさないようにずり下る。
 スリップの許されない下りだ。

 やがて地形図にものっている明瞭な岩場。
 ここの登りが最後のクサリ場だ。

 ここからの下りが西岳新道の核心部といえる。
 ほぼ垂直の泥壁にコケが生えており、その上に落ち葉がのっている。
 立木はあるが枯れているのも多いのであまりあてにはできない。
 固いところを足で探りながら、落ちないように下っていくしかない。
 標高差にして百メートル以上はそのような下りだ。

 傾斜がいくらかゆるむと、尾根をはずさないように神経を集中。
 ここまで踏みあとは、ときおりあらわれるという程度だったのだが、しだいに明瞭になってきた。

 一面の伐採跡地を過ぎ、夢見台らしき鉄塔あとに来る。
 このあたりは伐採されたおかげで両神山方面の展望がすばらしく、大キギと東岳の尖峰が威圧的だ。

 その先は送電鉄塔の先を直進するというルートミスをしたため、下山予定地の橋詰集落より奥の坂本集落に下り着いてしまった。

 雷鳴の音は続いていたが、稲光や雨にはならず、無事に自動車のところに戻ることができた。