一日目
大日堂への定期ワゴンバスは、始発が秩父駅10時40分。
これはちょっと、山歩きには使えない。
やむなく、西武秩父駅からワゴンタクシーを利用。
大日堂前までは20分ほどで到着。
周囲はまだ真っ暗だが、次第に明るくなってくる。
小さいが由緒ありげな大日堂の手前から、登山道に入る。
このコースの前半は、鉄塔巡視路と併用だ。
ジグザグながらずいぶん急なところを登りきると、60号鉄塔。
ここから57号まで、道沿いに鉄塔は都合4本。
鉄塔巡視路はなだらかで、のんびり歩いていける。
この中で、57号が最も展望がよいのだが、とりあえず58号鉄塔で小休止。
天気は上々だ。
まだ陽が当たらないので、霜柱が立ったままだ。
足もとの落ち葉も、霜で白くふちどられていた。
この先で明治神宮の第一看板。
このあたりからは地形図通り、尾根の東側を巻いていく。
図上は、ほとんど平坦なように見えるのだが、よく整備されているとはいえ、実際にはかなりきつい登りだ。
ふたたび尾根に出たところに、明治神宮の第二看板。登山地図には「大楢」と記載された地点だ。
ミズナラの大木が数本生えているが、巨木というほどではない。
ここで二度目の小休止。
仙元峠付近の道
| 一杯水から富士山のシルエット
|
その先すぐに、東側が崩壊したところ。
有間山の山稜がよく観察できるが、小さなピークがたくさんあって、主峰のタタラの頭がどれだか、よくわからない。
仙元峠への急登にかかると、北側斜面とあって、雪が出てくる。
一応アイゼンも用意してきたのだが、気温が高いため雪が柔らかく、アイゼンは不要だった。
この尾根を歩くのは、4度目だ。
最初に来たのは19年前。
このころ、道形ははっきりしているものの、スズタケのヤブがひどく、雪で倒れたスズタケをかき分けながら進むのにはずいぶん消耗させられた。
現在、スズタケはほとんど枯れてしまい、急傾斜なことを除けば全く問題のない、よい登山道に変容している。
過去の記録を見ると、最も最近に仙元峠を訪れたのは、18年前。
ピークの風情はちっとも変わっていないように見えたが、驚いたことに、この山のシンボルとも言える巨ブナが、縦真っ二つに裂けていた。
残った主幹は生きていたが、折れた幹は倒れていた。
雷撃によって裂けたのか、それとも積雪による枝折れか。
いずれにしても、ショックな光景だった。
時間があるので、蕎麦粒山まで足をのばす。
いつ来てもここは、いかにも山頂らしい、気持ちのよいピークだ。
風もなく、暖かい日だまりで大休止。
樹林のため富士山は見えないが、奥武蔵や遠く浅間・谷川・日光方面までよく見えていた。
今夜の泊まり場は、2ヶ月前と同じく、一杯水避難小屋。
来た道を戻り、仙元峠を巻く水源林道に入る。
こちらは南面なので、秩父側とはうって変わって雪も少なく、落ち葉の散り敷いた美しい道だ。
避難小屋に着いたのはお昼ごろだったが、水場がほとんど枯れていたので、涸れ沢を下ってまずは、水探し。
ここは崩れやすいガレを下るので、落石に気をつけなければならない。
10分ほど下ると、しっかりした水が出てきた。
登りは20分近くかかったが、二食分の炊事用水と、翌日行動するのに必要な水を確保することができた。
時間があったので、ストーブを試し炊きしてみたが、相変わらず煙がひどかったので、ストーブは今回も使わないことにした。
3時から、年長の人を中心に夕食の支度。
手際はまだおぼつかないが、若い人も少しずつ動けるようになってきた。
昼が最も短い季節だけあって、4時を過ぎると周囲が次第に暗くなる。
西から南にかけて、空が赤みを増してき、ブナの木の向こうにある富士山がシルエットになる。
日が暮れきると、澄んだ空に星が輝いていた。
周囲には雪が積もっているのに、空気は比較的暖かく、快適な夜になりそうだった。
時期が時期だけに重装備でシュラフに入ったが、明け方まで寒さはまったく感じなかった。
二日目
翌朝も好天。
東の空が白み始めたころに小屋を出発。
三ツドッケの三角点に着くとすぐにご来光が始まった。
この日も快晴なので、奥武蔵のほぼすべての山と奥多摩、丹沢はずいぶん近く見えた。
秩父から丹沢の大山、三ツ峰、丹沢山、蛭ヶ岳、檜洞丸などがはっきりと識別できるとは思わなかった。
奥多摩・奥武蔵はほとんどシルエットだが、なかなか絵になる景色だった。
富士山も、今回はほぼ全体が見えていた。
ずいぶん冠雪が増えた富士山は、斜光線を浴びて薄いピンクに染まっていた。
奥秩父は、雲取山、芋の木ドッケ、甲武信三山などが判別できた。
今回山行の展望地はここだけなので、少し多めに眺めを楽しんだのち、先へ進む。
水源林道が七跳尾根と交差する十字路でひと息入れて、矢岳への分岐に入る。
久しく以前にはスズタケのヤブが深く、身動きもままならなかった分岐付近だが、スズタケがほぼ枯れ尽くしているので、見通しがきく。
これなら、尾根をはずさずに下っていくのは、さほど難しくはない。
尾根にはカモシカの足跡が続いており、それをたどっていくと牛首手前に下り着いた。
牛首手前の小さな岩場は、左から巻き下るのだが、スリップに注意して慎重に行ったので、問題なく下れた。
牛首近くから武甲山を望む
| 落ち葉と薄雪
|
牛首からは、急傾斜のピークを次々に越えていく。
地形図で見ると小さな登降だが、実際には急登と急下降の連続だから、見た目よりずっと時間がかかるし、体力も必要だ。
しかし、技術的に困難なところはほとんどない。
烏帽子谷分岐で休むと、矢岳に着くまでに、地形図には出てない小ピークをいくつも超える。
矢岳まで来ると、雪も少なくなり、樹林越しに秩父市内が望まれて、里近くなったような印象がある。
矢岳の先は、ひどい急傾斜の下りで、落ち葉の下の枯れ木に足を取られてスリップしそうだ。
荷物が重いので、足の疲労も溜まるところだ。
歩程が意外にはかどらないので、急降下した先、標高1120メートル付近の日だまりで大休止。
標高1040メートルのピークが、ずいぶん遠く見える。
だが、きびしい下りもここまで。
ここからはおおむねヒノキの植林地で、登り下りもよほど穏やかになる。
大久保谷左岸の尾根付近では、ヒノキの伐採中で、切り倒された丸太が散乱し、登山道を架線が渡っていたので、注意しながら通過。
ここからは、武甲山や小持・大持山が目の前だ。
事上沢ノ頭と大反山の間にある送電鉄塔は、以前はずいぶん見晴らしが良かったのだが、雑木が育ってしまい、展望皆無。
ここで最後の小休止をとったのち、大反山はエスケープして、鞍部から東側を巻く鉄塔巡視路に入る。
大反山からの道が合わさる祠付近からもさらに、急な下りが続くが、道形がしっかりしてくるので、ずいぶん歩きやすい。
ハンターによる銃声が響くので、今度はそちらが心配になる。
越の浄水場近くに降り立ち、しばらく車道を歩くと市街地で、秩父鉄道の踏切の音が聞こえ、周囲は見慣れた景色が広がっていて、気分は一気に日常生活モードに。
駅に着くとさっそく、秩父農工の生徒と顔を合わせてしまった。
|