ササヤブを抜けて静寂の酉谷山へ
熊倉山〜酉谷山〜一杯水

【年月日】

1990年1月14〜15日
【同行者】 単独
【タイム】

1/14 熊倉山寺沢登山口(7:30)−官舎(8:45)
   −熊倉山(10:35-10:55)−蝉笹山(11:30-11:40)
   −酉谷山(1:55-2:15)−一杯水(4:55)
1/15 一杯水(7:10)−三ツドッケ(7:30-7:35)
   −一杯水(7:50)−仙元峠(9:05)−大日堂(12:00)

【地形図】 武蔵日原、雲取山、秩父、三峰

妙法ヶ岳から望む酉谷山
一日目(寺沢から熊倉、酉谷、一杯水)

 一九九○年の初山行。

 寺沢の熊倉登山口から、凍った土の上を歩きだす。
 山ノ神で一礼。

 三ツ又で仁田沢の水をコップにくんで飲む。
 冷たくてうまい。

 官舎は、以前より一段と荒れた感じ。
 向こう側のガレ沢から水を取り、ずっしりと重くなったザックを背負ってじっとがまんのジグザグ登り。

 笹平でまた小休止。
 ようやく斜めから陽が射してくる。

 熊倉山まで重荷で、3時間かかった。
 やはり荷が重いとずいぶん違う。
 天気はよいのだが、陽射しが弱く、あまり暖かくない。

 雲取の方向が高曇りしていて、黒っぽいいやな雲も湧いていた。
 しばし休んだのち、酉谷山への縦走に出発。

 一つ目から三つ目までは、展望はないがアセビやツツジ類の潅木があり、「山」と書いた境界標などもあってなかなか感じのよいところ。

 その展望が一転して広がるのが第4ピーク上の露岩の上だ。
 熊倉に来るのなら、ここまで足をのばせば、さぞかし印象深いハイキングとなろう。

 浅間山から両神山、大血川の谷を隔てて雲取から奥秩父が見え、滝谷ノ峰から伸びる稜線上のピークはこれから登る酉谷山である。

 五つ目と六つ目のピークは展望なし。
 尾根がやや不鮮明になる六つ目のピークからの下りはかなりの急降下となり、スズタケが深いところもある。

 雑木、ブナ、ダケカンバなどの木々のむこうに秩父らしき町並みが見え隠れしていた。

 このあたり傾斜はゆるく登下降するが、スズタケが全く背丈を没する状態のため、周囲はまったく見えず、雪の消え残った踏み跡をかろうじてたどる。
 小黒ピークがなかなか近づいてこない。

 太陽寺入口との分岐点は切り払われた小さな空間で、壁の中のようなところを歩いて来た身にとってはほっとする場所。
 太陽寺入口まで9kmというのと、埼玉高体連の指導標があった。

 小黒ピークの直下はピークに直登せず、右に見える酉谷本峰との鞍部に向かってトラバース。

 ちゃんとした道ではなく、荒れた滑りやすいところであるうえ、スズタケがかぶさっていて、かなり苦労する。
 ひとしきり巻いて、ようやく鞍部に出た。

 酉谷山に登りついたのは、2時前だった。

 樹林越しに石尾根が望まれるくらいで、展望はないが、静かで落ち着いた山頂だった。
 登山口から六時間、内容も濃いコースだったと思う。

 しかし、一杯水まで三時間弱だとすると、日が暮れてしまう恐れがあるあまりゆっくりできなかった。

 天目山(日向谷ノ頭)との鞍部からスズタケを分けて稜線の南面に下ると水源林道。
 地図に載っている道に出てほっとする。

 水源林道には積雪がなく、道もほとんど平坦で、スズタケもしっかり刈り払ってあり、とても歩きやすい。

 天目山と坊主山の鞍部に、牛首から矢岳へ向かう分岐の表示があった。
 それによると、矢岳まで3時間で、道は悪く地形図は必携だとのこと。

 次のピークを巻いたあたりから七跳山にかけては、ゆるいながらも長い登り。
 ゴンパ尾根を乗っ越すところで腰を下ろす。
 ここまで酉谷からちょうど1時間。

 ここから右に下ると小川谷に下り、左に登っていくと七跳山をへて大平山、そして細久保集落に向かうはずだ。
 ここの道標には、三ツドッケまで1時間という落書があった。

 次の大栗ノ頭を巻き、再び稜線へ出ると、北側に大平山が見える。
 この山は我が家から見える山。
 七跳山から北東に延びる稜線上の一峰だが、とてもすっきりした形のよい山だ。

 七跳との鞍部の大クビレには、天目山林道が走っているのが見える。
 早く廃道になってほしい道だ。

 次のピークはハネドの双耳峰。
 ここの南にある露岩からは、石尾根方面の展望がとてもよい。

 ハネドのあたりで、「巡視道」と書いた指導標。
 これに迷い込んだために、20分のロスタイム。
 ヨコスズ尾根がぐんぐん近づいてきたあたりで太陽が雲取のかなたに沈んだが、どうにか明るいあいだに一杯水避難小屋に着くことができた。

 小屋の中は満員(といっても全部で九人)だった。
 まわりの人は飲んだりしゃべったりしていたが、疲れと安心で、シュラフにもぐりこむとすぐに寝てしまった。

 ストーブがガンガン炊かれていたので暑いくらいで、快適だった。
 七時過ぎには他の人も静かになった。

 ところが、あとからやってきた学生らしい一行が小屋のすぐ外でテントを張り、大騒ぎを始めた。
 そのため九時過ぎに目がさめ、眠れなくなってしまった。

 学生はどこでもやかましい。
 いったいどういう神経をしているのか。
 ウエストバッグの中に耳栓があるのを思い出し、それを耳に詰めるとようやく眠れた。

二日目(一杯水から仙元峠、大日堂)

 明け方になるとさすがに空気は冷たくなったが、シュラフをすっぽりかぶると寒くはなかった。
 六時過ぎ、まわりが起きだしたのでシュラフから抜け出し、食事の支度をする。

 外はカラマツ林の中だが、朝焼けが美しい。
 やがて赤い太陽があらわれた。
 小屋の前でご来光とはぜいたく。

 食事をすませ、軽アイゼンをはいて三ツドッケに向かう。
 冷え切った朝の冷気が爽快だ。

 第一ピークはかなり急登だが、第二ピークのはっきりしない岩稜をこえると、三角点ピークは一投足だった。

 三角点ピークからの展望はこの山行随一のすばらしいものであった。
 雲取から石尾根の展望台としてこの場所は最上の地点だろう。

 石尾根のむこうには、富士山の巨体が浮かんでおり、御前山、大岳山などのはるかかなたには丹沢山塊がひしめいている。
 しばらく呆然とその景観を眺めた。

 避難小屋に戻り、パッキングをし直して、仙元峠に向かう。
 一杯水の水場は、完全に涸れていた。  焼棒杭尾根から倉沢に下る仕事道との分岐で一息入れ、あとは仙元峠まで休まずに行った。
 ここからは木の間越しに富士山が望まれる。

 ここは「仙元峠」ではなく「仙元ドッケ」だ。
 仙元尾根は、これで三度目。
 積雪はさほどではなく、大日堂の境内におりたった。