曲沢から和名倉山

【年月日】

1994年7月10日
【同行者】 単独
【タイム】

滝川峡トンネル先(6:35)−曲沢(7:38)−山道(9:49)
−和名倉山(10:43)−滝川峡トンネル先(14:50)

【地形図】 雲取山、雁坂峠

曲沢の滝
 秩父の山のなかで和名倉山は両神山と並んでよくめだつ山だ。山容自体にきわだった特徴があるわけではないが、奥秩父主脈から離れたところにあるため、独立峰といってもいい山だ。

 また滝川、大洞川という荒川の二大支流は和名倉山をぐるりととりかこむ関係にある。たとえば滝川の槙ノ沢をつめあがればそこは大洞川井戸沢の源流であり、八百谷の源流は惣小屋谷の源流である。和名倉沢や市ノ沢、大除沢(滝沢)は和名倉山そのものにつきあげる沢である。

 秩父から一番らくに和名倉山に登るには、一部山道が利用でき、かつもっとも安全な曲沢を遡行するのがベストだと思われた。

 標高差1000メートルを登降するので、荷を軽くしていった。滝川の高滝下の吊橋への小径を下降しはじめたのが6時半。ここの吊橋は去年は十分渡れたが今年は橋板がかなり腐っており、踏みぬきそうな感じがしたので滝川を渡渉。

 この道は昨年大荷物で槙ノ沢にテント釣行して以来だが、この日は軽装なので歩程もはかどる。約1時間で曲沢に着く。ずっと樹林のなかを行くので空は見えないが、曇天にガスがかかっているあいにくの天気だ。

 そこから曲沢の遡行。しばらく行くと二段になった5メートルほどの幅広のナメ滝に出会う。ここは巻くよりも下段はへつり、上段は水線左を登ったほうがらく。ときどきヤブにおおわれる沢を40分ほど登ると二俣。

 ここで沢は二分されるから水量はぐっと減る。ここで標高はまだ1300メートル。先の長さが思いやられるところだ。じっとしている時間のあるイワナ釣りとちがって沢登りは非常にハードだということに気がついた。

 二俣のすぐ上で二段5メートルのトイ状滝。ここは左岸に巻き道がある。ここからも平凡なゴーロ登りだが傾斜はきつくなる。シカの親子が鋭い叫び声をあげて斜面を走ったりもする。二段数メートルの滝を見るとすぐに左が涸れ沢になった二俣となり、倒木のつまったルンゼに入る。ここは落差があったらいやなところだ。

 沢は源頭の様相となり、標高1645メートルあたりで伏流。ここからしばらくはガレ場登りとなる。沢音が消え、コマドリの声が響き渡る。曲沢もかつての伐採によって傷ついたとみえ、あたりは二次林、ワイヤーが散乱したところもある。この伏流もその時の傷あとか。

 高差ほぼ100メートルで水流が復活するがガレの中のツメの様相となり、まもなく赤テープで明瞭に示された山道に出会う。遡行は1時間半で終了。

 山道はおおむねりっぱな道だった。この道は川又から将監峠に行く際に和名倉山を巻くルートらしく、山頂へは向かわずどんどん南下している。あたりはダケカンバの若木がめだつ二次林。ここでウスヒラタケが少しとれた。将監峠と和名倉山頂への道標が立つ尾根上の三叉路までは約30分だった。

 ここからはふつうの登山道。ずいぶん奥地まで来たつもりだが、カラマツの植林になるのでややちぐはぐな雰囲気。夏山特有のぬかるみの匂いのするなか、林床ではマルバダケブキの黄色い花が咲きかけていた。ゆるやかに登っていくと二瀬尾根への分岐。分岐付近の二瀬尾根道ははっきりしている。

 手の入っていないカラマツ林のなかの道は地形図にあるのとはちがい、稜線の南をトラバースして行く。ジュリジュリというメボソムシクイの声が聞こえるのも夏山らしい。カラマツの根ぎわにツガマイタケがいくつか出ていた。やわらかくてうまそうな匂いがしたのでニンギョウタケかと思ってとって帰ったのだが、図鑑で調べてみるとツガマイタケで食用とは書いてなかったのでがっかり。

 カラマツ林を抜けると大らかな草原。ここにもシカの親子が走っていた。今までずっと空の見えないところばかり登ってきたので曇ってはいるが爽快なところだ。花はマルバダケブキくらいしか咲いていなかった。

 草原からこんどはシラビソの樹林帯に入る。ここのシラビソは皆伐されたあとの二次林で若木ばかりだが、それだけにびっしりと生い茂って蛇骨岳直下を思わせるひどい密ヤブとなっている。

 和名倉山の三角点は密ヤブのなかの小さな切り開きで、苦労してきたわりには平凡な山頂だった。10時40分すぎ。

 すぐに下山にかかり、曲沢まで下ってから大休止。荷を軽くしてきたのは正解だった。沢下りには登りと同じ時間をかけたが、3時前には自動車を停めたところに戻れた。