千曲川から甲武信岳

【年月日】

1991年6月9日
【同行者】 単独
【タイム】

毛木平(5:09)−水源(8:06)−甲武信岳(8:45-8:57)
−三宝山(9:28)−十文字小屋(11:45)−毛木平(1:27)

【地形図】 居倉、金峰山

アズマシャクナゲ
ベニバナイチヤクソウ

 毛木平に着いたのは5時過ぎ。さすがにシャクナゲの季節とあって、自動車がいっぱいとまっていた。

 ベニバナイチヤクソウの群落がすばらしい。林床が薄いピンクに染まり、若葉いろの林の中にレンゲツツジの朱色が浮き出ている。その中の林道をゆっくり歩いていく。

 コンロンソウの大きな群落があるところを過ぎると、大山祇神社。ここで山の神に一礼。左は千曲川がどうどうと流れており、右のヤブにはマタタビがすこぶる多い。ツマトリソウ、カラマツソウ、マイヅルソウなどの花は今年はじめて見る。林床にはシロバナノヘビイチゴがたくさん咲いており、初夏が楽しみだ。

 歩き始めてから1時間、石のあるところで小休止。マタタビやイチヤクソウは見えなくなったが、ウグイスカグラやみどり花のエンレイソウ、ミヤマハンショウヅル、キバナノコマノツメ、ミヤマスミレらしきスミレなどの花が見られだす。ミヤマハンショウヅルは開花しているのはたぶん初めて見た。黄色いのとえんじ色のと2種類あった。

 キバナノコマノツメは森林限界上の岩場からこのような沢沿いまで分布域の広い花だが非常にたくさん咲いていた。水流がやや細くなってくると、つぼみを持ったレイジンソウやズダヤクシュも出てくる。やがて、キバナノコマノツメに代わってコミヤマカタバミが多くなる。朝まだ早いためか、みんな花びらを閉じているが、中にはピンクいろの花もまじっている。

 7時前にもう一度休み、さらにしばらく行くと、大きなガレ場を通過。石に甲武信岳までの中間点と書いてあった。

 何度か流れを渡り返しながら行くと、いよいよ水流が細くなり、流れがほぼ一対一に分かれるところの右が千曲川の源流だった。
 最後の水場なので水を汲むために沢床におりてみると、涸れ沢の途中からおいしい水がこんこんと湧きだしていて、感動的だった。

 そこから稜線に向かってしばしの急登。奥秩父縦走路の稜線に立つと、樹林ごしに国師岳の大きな山体も見える。ゆるやかに登っていくと、足元がガレ状となり、森林限界を越えて甲武信岳の山頂に出た。

 まだ9時前、薄いもやがかかってはいるが快晴微風の好天。こんな時間に甲武信に立てるなんて信じられない。甲武信から金峰、国師の山頂をのぞむのも初めてだ。
 山頂は大混雑だった。

 頂上直下にハリブキの芽が出ていたので、昼のおかずにすこし摘み、三宝山に向かった。縦走路にはミツバオウレンの花が多い。三宝山の頂上直下を左に入ると三宝岩という岩場があり、甲武信を始め、南から西にかけての展望が広がり、すこぶるよい場所だ。

 富士山がかすかに姿を現わした。イワカガミがいくつか咲いている。三宝山にもおおぜいのハイカーが休んでいて、たいへんな騒ぎだった。

 三宝からはやや北東に向かって下っていく。以前ここを登ったときには田園交響曲の第五楽章が耳のなかでエンドレステープのように鳴っていたのだった。その時には沢のようだった道は、心地よい原生林の下りだ。

 武信白岩山との鞍部の尻岩からひと登りで白岩山。真ん中のピークの上に岩があって、大きな展望が得られる。すぐ前に三宝があるので甲武信や木賊は見えないが、屋根の形をした破不山、雁坂嶺、突出峠の尾根の向こうの和名倉山などがよく見える。

 大山へ向かう稜線からアヅマシャクナゲの鮮やかな花があらわれた。大山も好展望のピークだ。

 両神がぐっと近くなり、シャクナゲの花もたいへん多くなる。八ケ岳も姿を現わした。北の方では御座山が大きい。下ヤツウチグラの小さな岩峰も目だっている。
 大山の下りのハシゴが終わり、樹林帯に入ったあたりに、非常にみごとなシャクナゲの大木があって、満開の花を咲かせており、何人ものハイカーが感嘆していた。

 急な下り一方の道を行き、人々のざわめきが聞こえてくると、すぐに十文字峠。
 十文字小屋がこのようにごったがえしているのも、初めて見た。まだお昼前だが、テント場はすでにふさがっていた。テントと冬シュラフを背負って一回りしたとはご苦労な話だが、これでは下山するしかない。

 下山にかかるったのはお昼すぎ。
 八丁ノ頭からの急降下はこたえるが、コミヤマカタバミやツバメオモト、クルマバツクバネソウ、ツクバネウツギ、ユキザサ、エンレイソウ、カラマツソウ、クルマユリなどの花があるので飽きない。

 1時過ぎに五里観音の前を通過。元治元年六月に建てられたものだ。
 毛木平でベニバナイチヤクソウを盗んでいる中年女性の登山者がいた。