翌朝は、4人で行動を開始した。
峠を越え、伊那側に少し下って戸台からの登山道に入った。
この道は、23年前の5月に戸台から登ってきた道だ。
その時は、仙丈ヶ岳に登ろうとしていたのだが、夜中にテントが吹き倒されそうなほどの突風に見まわれ、疲労困憊して下山するはめになったのだった。
ジグザグにしばらく下ると、大平山荘の前に出る。
薮沢コースへは、ここから入っていく。
最初は樹林帯のトラバースが長い。
傾斜がきつくなると、ちょっとした尾根の上に出る。
小1時間歩いたので、ここで小休止。
尾根を越えると、薮沢沿いのコースになり、谷が開けて、夏の花咲く道となる。
谷には雪渓もいくらか残っていて、じっとしていると寒いくらいの涼しさだった。
ミヤマキンポウゲ・タカネグンナイフウロ・クルマユリ・カラマツソウ・エゾシオガマ・ウサギギク・ヨツバシオガマ・ハクサンフウロ・センジュガンピ・クロクモソウ・シナノオトギリ・ミソガワソウなどを愛でながら大滝ノ頭分岐まで行って、また小休止。
その先、馬ノ背ヒュッテ周辺は、鹿よけ用の柵が張り巡らされていて、人間は柵の中を歩いていくようになっていた。
この柵は、つい最近になって設置されたものらしく、柵の中と外の植生はほとんど同じで、柵の中にも、マルバダケブキが大開花していた。
馬ノ背の尾根に上がると、ハイマツ越しに仙丈小屋と山頂が見える。
最高点まであと1時間程度と思われるが、相変わらず天気は快晴で、そよ風が涼しい。
カールの底の仙丈小屋でまた休んだが、山頂まではすぐだった。
チシマギキョウやミヤマキンバイなどを見ながらちょっとした火口のようなカールの縁を登って行くとすぐに仙丈ヶ岳の最高点に着いた。
薮沢コースで登山者はほとんど見なかったが、小屋で泊まったらしき人々が山頂で憩っていた。
ここもまた展望のよいピークで、前の日に登った駒ヶ岳や鋸岳が圧巻だった。
駒ヶ岳より多少近いので、北岳や塩見岳方面も手にとるようだった。
帰りは、小仙丈尾根を下った。
小仙丈ヶ岳へもいくらか登るが、ハイマツの中を緩やかに下っていくので、展望がよく、こちらも気持ちのよい尾根だった。
かなりいいペースで下り、馬ノ背分岐を過ぎた樹林帯で一度休んだだけで、あとは一気にテント場まで戻った。
途中、アオチドリやコイチヨウランが咲いているのを見たが、アオチドリを見たのは初めてかもしれない。
テント場に戻ったのはまだ10時半だったので、食事をしたあと、読書や昼寝に時間を使った。
ツェルトで横になっていると、まわりにはハネカクシがウジャウジャ這っているのだが、こちらが動かずにいると、奴らも落ち着けるのか、噛みついたりしないでおとなしくしているのだった。
この日は、ツェルトを撤収してテントに入れてもらった。
午後になって、中学生くらいの大集団が近くにやってきたので騒がしかったが、夕方5時くらいには眠ってしまった。
夕方、遠くで雷の音が聞こえたが、ほとんど降らずにすんだ。
夜半になってから本降りの雨となったが、この夜はテント泊まりだったので、全く濡れずによく眠れた。
下界は相変わらず、猛暑が続いているらしかった。
涼しい北沢峠は名残惜しかったが、翌朝一番のバスで下山した。