南アルプス南部縦走

【年月日】

2000年7月17〜21日
【同行者】 単独
【タイム】

7/17 椹島(10:10)−小石下(11:50)−清水平(12:58)
   −駒鳥池(14:50)−千枚小屋(15:45)
7/18 千枚小屋(5:25)−千枚岳(6:20)−悪沢岳(7:50)
   −中岳(9:04)−荒川小屋(10:08)−赤石岳(12:50)
   −百間洞山の家(15:00)
7/19 百間洞山の家(5:50)−中盛丸山(7:05)−丸山水場
   (8:02)−兎岳(8:57)−聖岳(11:28)−聖平小屋(13:20)
7/20 聖平小屋(4:45)−上河内岳(7:00)−茶臼小屋分岐(8:22)
   −仁田山分岐(9:17)−易老岳(10:30)−光小屋(13:30)
7/21 光小屋(4:31)−イザルガ岳(4:48)−易老岳(6:45)
   −仁田池(8:25)−茶臼岳(9:07)−茶臼小屋(9:30)
   −横窪沢小屋(11:06)−ウソッコ沢小屋(12:20)−畑薙大吊橋
   (13:24)−ダムサイト(14:15)

【地形図】 赤石岳、大沢岳、上河内岳、畑薙湖、光岳

 勤続20年のごほうびとして、3日の特別休暇がもらえたので、ふだん行けない、大きな山に行こうと思った。
 行き先は、あこがれの、南アルプス南部に決めた。

1日目

千枚小屋から望む朝の富士山
千枚小屋近くのお花畑

 畑薙ダムに着いたのは、9時半過ぎ。
 堰堤付近に止まっていたワゴン車のハイカーに尋ねると、東海パルプのバスが、10時に出るという。
 それを聞いて、林道をえんえん歩くのが、ばからしくなった。

 運転手に、千枚小屋で泊まることを確約して、\3000払い、バスに乗った。
 畑薙湖は、発電所からの吐き出し水が濁っているため、全体に、おかしな色をしていた。
 ロングドライブの疲れもあって、すぐに眠ってしまった。

 避暑地みたいな感じの椹島で腹ごしらえをして、出発。
 アーティチョークのように大きなフジアザミの群生した林道を、右に行った、橋のたもとが、事実上の登山口だった。

 トリアシショウマ・オククルマムグラなど、里山の花がちらほら。
 すぐに、ヒラタケの群生も目に入ったが、ここ数年来、背負ったことのない重荷のため、とても手を出す元気は、なかった。
 ウスタケやシロバナイチヤクソウなどが目を慰める中、よたよた登っていくと、登山道に、シャクジョウソウが咲いていた。
 めずらしいので、写真撮影を口実に、小休止。

 あたりは、ブナ・モミ・ツガなどの自然林。
 巨大なミズナラも、生えていた。

 1時間半ほど歩いて、林道を渡ると、伐採あとの灌木帯。
 いい森を見てきただけに、植生の貧しさが、目についてしまう。
 下生えに、シャクナゲなどもある場所なのに、タラノキなどが生えてしまっていた。

 小石下というところを過ぎると、ヒノキの植林地。
 ついに出た! という感じだったが、こんなに標高の高いところにヒノキなんか植えて、どうするのだろう。

 その上は、登山道の周囲に限っては、長く伐採されていない、自然林が続いた。
 ツクバネソウやコアジサイなど、林床を飾る、地味な花が咲いていた。
 ちっとも目立たないコアジサイの花は、よく見ると、淡い、上品な紫色なのだと、今さらながら、気がついた。

 清水平の水場で、のどを潤すと、シラビソの森になり、ゴゼンタチバナ・マイヅルソウなど、樹林帯の花が見られて、雰囲気がよい。
 ミヤマチドリの群生したところもあった。

 林道が近づいたところで、西側の展望が開けると、赤石岳が巨大だ。
 あれに登るかと思うと、気が遠くなる。

 メボソムシクイやルリビタキのさえずりを聞くと、駒鳥池。
 ここで、最後の登りに備えて、息を整えた。

 なおもシラビソの森だが、東海パルプの立てた看板によると、このあたりは、明治40年代の伐採あとだという。
 すると、ちょうど、ほぼ100年を経た森ということになる。
 天然更新が、よほどうまくいっているのだろう、一帯は、とても二次林とは思えないほど、原生の雰囲気に満ちた森になっていた。

 ひと登りでお花畑の広がる、千枚小屋に着いた。
 二食付きの山小屋に泊まるのは、初めてだ。

 受付を済ませたのち、お花畑を散策。
 エンレイソウ、クルマユリ、ナナカマド、シナノキンバイ、キバナノコマノツメ、ニリンソウ、タカネグンナイフウロ、ハクサンフウロ、ハクサンチドリ、ミヤマオダマキ、ムカゴトラノオ、クロユリ、カラマツソウ、ミヤマキンポウゲ、オオサクラソウなどが、いたるところに咲いていた。

2日目

赤石岳から望む悪沢岳
赤石岳から望む聖岳

 小屋で朝食をいただいて、出発するというのは、こんなにらくなものなのか、と感動するほど、らくちんな出発だった。

 お花畑を過ぎると、千枚岳直下のハイマツ帯。
 まだちょっと寒かったが、ハクサンイチゲ、ハクサンシャクナゲ、マイヅルソウ、ツマトリソウ、オオヒョウタンボク、コケモモ、ミヤマキンバイ、イワベンケイ、タカネコウリンカ(つぼみ)、ミヤマヨモギ、タカネヤハズハハコなどを愛でながら、ゆっくり登った。

 千枚岳のピークを過ぎると、オヤマノエンドウ、イワカガミ、ミネズオウ、キバナシャクナゲ、イワウメ、アオノツガザクラ、ツガザクラ、チシマアマナ、ミヤマミミナグサなどが咲く、尾根道。
 岩の間を縫いながらのコースは、なかなかスリルもあって、とても楽しい。

 チョウノスケソウ咲く悪沢岳に着いてから、改めて、周囲を見回すと、甲斐駒ヶ岳、塩見岳、北岳、仙丈ヶ岳、鳳凰三山など、知った山がいくつか見渡せたが、ほとんどは知らない山ばかりだった。

 中岳へは、いったん下って、登り返す。
 テガタチドリ、チングルマなども、見られるようになる。
 避難小屋の前でひといき入れて、荒川小屋に向かって、カールを下った。

 ここのカールのお花畑は、コース中最大かつ、もっとも、美しかったように思う。
 ハクサンイチゲとシナノキンバイがもっとも多いが、イワカガミ、クロユリ、ミヤマキンバイ、ハクサンチドリ、キバナノコマノツメ、タカネヤハズハハコ、イワベンケイ、ツガザクラ、ミヤマダイコンソウなどが、咲き誇っていた。

 標高を下げるにしたがって、お花畑から、ハイマツ、ダケカンバ、シャクナゲなどの灌木の中に、沈んでいく。
 下り着いた荒川小屋のベンチで、赤石岳への登りに備えて、大休止した。

 のしかかるようにそびえる赤石岳へ出発。
 ハイマツの中を、あせらないように、登っていく。
 広河原への分岐を過ぎて、傾斜は一段と、急になった。

 花は、悪沢より少なく、ミツバオウレン、イワカガミ、チングルマ、ハクサンイチゲ、キバナシャクナゲなどが咲く。
 登りの苦しさに、後ろを振り返れば、悪沢岳が巨大だ。

 ようやく登り着いたのは、小赤石岳。
 赤石のピークは、まだ先だ。
 でも、ライチョウの親子が遊び、イワヒバリが飛び交う、いいピークだった。

 めずらしく、赤石岳には、誰もいなかった。
 北には、巨大な中岳、悪沢岳。
 南には、これまた巨大な聖岳。
 赤石岳こそは、赤石山脈の盟主だと実感できた。

 赤石岳の下りにかかると、まずはガレ場のトラバース。
 花が咲いていないこともあって、ここは、あまり気分が良くない。
 下りきると、平坦なところがずっと続く。
 あたりはハイマツ帯だが、花はあまり多くないものの、イワカガミやクロユリが咲いていた。

 百間平は、湿原状の平坦地。なかなか、風情がよい。
 ライチョウの親子づれが、何組も、歩いていた。
 ひなは、生後10日から12日ほどのが、だいたい、5羽くらい。
 にわとりのひなにくらべて、母鳥から離れる距離が大きいので、親はずいぶん、気を使っているようだ。

 振り返ると、赤石岳が、倒れてきそうなほどの大迫力だ。
 鞍部から、灌木の茂る百間洞山の家まで、すぐだった。

 ここのテント場は、流水に近いのはうれしいが、トイレが遠いのが、難点ではあった。
 ともかく、自炊ができて、ようやく、荷物が減らせるのが、ありがたかった。

3日目

お花畑の中を歩くライチョウ
兎岳から赤石岳を振り返る

 百間洞の夜は、かなり寒かった。
 Tシャツに、ラガーシャツ、レインウェアを着込んで、シュラフにもぐったが、それでも、寒さでときどき、目が覚めた。

 やや軽くなったザックを背負って、きょうは、聖岳に向かった。
 百間洞山の家の周辺も、花数は多くないものの、お花畑になっていた。
 タカネグンナイフウロ、カラマツソウ、シナノキンバイ、ミヤマキンポウゲ、クロユリ、ハクサンイチゲ、マルバダケブキなどの間をぬって、稜線へと、トラバースぎみに登る。
 メボソムシクイ、ルリビタキなどが、にぎやかだった。

 シラビソ林、そしてダケカンバ林へと登っていくと、早くもからだがヒートアップ。
 約1時間で、尾根に登り着いた。
 快晴微風。
 これから登る中盛丸山がりっぱだ。

 中盛丸山は、好展望のピーク。
 仙丈、甲斐駒、塩見、北岳、間ノ岳などが遠望でき、西側には、林道でずたずたにされた尾根が望まれた。
 そして、悪沢、赤石、聖の巨峰は、相変わらず大きかった。
 エスケープしてきた、背後の大沢岳も、これから向かう、眼前の兎岳も、稜線上の一突起というようなものではなく、十分に登りがいのある、どっしりした山だった。

 丸山の水場で、水を補給し、数人のハイカーが憩う、兎岳へ。
 休んでいたのは、千枚小屋以来、前後しつつ歩いてきた、顔なじみの人たちだった。
 ここで初めて、上河内岳から光岳への稜線を目にした。
 上河内岳は、すっきりした形の、高い山だった。

 まだ時間は早いが、これから、聖岳に登らなくてはならない。
 少しでも、荷を軽くするために、荒廃した避難小屋の前で、大休止することにした。
 小屋の中はめちゃめちゃ。周囲には、ゴミが散乱していて、ひどいものだが、ミヤマクワガタやミヤマタネツケバナが咲き、エゾハルゼミがグービィクービィと鳴いていた。

 1時間近くも休んだのち、聖岳への登りにかかる。
 なんという岩か、赤い岩がこの山の特徴のようだ。
 南側は、激しいガレ。北側の岩塊の間を、両手両足を使って登る。
 ミヤマキンバイ、イワウメ、キバナシャクナゲ、イワカガミ、ハクサンイチゲなどが咲いていたが、花数は、さほどでもない。
 朝、発ってきた百間洞の赤い屋根が見えたが、まもなく、湧いてきたガスに隠れてしまった。

 聖岳の山頂では、ガスのため、展望が得られなかったが、たいへん満足することができた。
 この日はあと、聖平まで下るだけなので、気分的にも、らくだった。

 聖岳南側のざくざくした大斜面を下っていくと、ガスが晴れ、上河内岳の巨体が、あらわれた。
 小聖を過ぎると、ダケカンバ林。ついでシラビソ林に入っていく。
 シラビソの森に入ると、ホームに帰ったような心地がした。

 便ヶ島方面への分岐から、聖平にかけては、シナノオトギリ、タカネグンナイフウロ、ハクサンフウロ、マルバダケブキ、コバイケイソウ、ミツバオウレン、ミヤマキンポウゲなどの、地味なお花畑。
 聖平で、テントを張ると、夏空に入道雲が、湧いていた。

 この日は、午後4時ごろから、激しい雷雨に見舞われた。
 おれのテントは、ゴアテックス製だが、横着をして、フライシートを購入していない。
 ゴアテントといえど、下部のスカート部分や、テープシールした部分から、かなりの浸水がある。
 シュラフなど、濡れては困るものをザックに入れ、浸みてきた水をバンダナで拭き取り、コッヘルに絞り入れるという、排水作業を、3時間ほども、つづけた。

 雨はいったんあがったが、午後9時ごろからふたたび、雷雨となった。
 今回の方が、雷は激しく、ヘッドランプがなくても、あたりが見えるくらいだった。
 またまた、排水作業に追われた。

4日目

上河内岳から聖岳を振り返る
ライチョウの親子

 この日も、ロングコースとなるので、トラツグミが鳴く、午前3時過ぎに起きて、出発準備をした。
 驚いたことに、ゴアテックス製なのに、テントの内部には、かなりの結露があり、またまた、その拭き取り作業をしなければならなかった。
 明るくなると、ルリビタキ、メボソムシクイ、アカハラなどがさえずりはじめた。

 歩き始めは、シラビソ林。
 足元には、マイヅルソウやオサバグサが咲いていた。
 小ピークを越えると、ギョウジャニンニクの原。
 ズダヤクシュも、ちらほら。

 日が昇ると、メボソムシクイ、コマドリ、ウグイスなどが、にぎやかだ。
 これらは、樹林帯の小鳥たち。
 美しいお花畑もいいが、こういう樹林帯を歩いていると、気が休まる。
 おれは、樹林帯のハイカーなんだなぁ、と実感した。

 ハイマツ帯にまで、高度を上げると、聖岳が、斜光線の中で、神々しい。
 尾根の上は、お花畑になっていて、ハクサンチドリやミヤマコゴメグサが咲き、トリカブトやタカネコウリンカが、咲こうとしていた。

 何組かのライチョウとすれ違いながら、上河内岳。
 ここの展望も、すばらしく、聖と光への縦走路が、手に取るようだった。

 上河内岳を下ると、ちょっとした湿原で、ガンコウラン、イワショウブ、ネバリノギラン、ウサギギク、ギョウジャニンニクなど、ここまでのルートでは見なかった花が、咲いていた。

 茶臼小屋分岐を直進し、時間節約のため、茶臼岳をエスケープ。
 このエスケープルートは、かなり歩きにくかった。

 尾根ルートと合流したところが、仁田池。
 ここからの稜線には、何ヶ所かの水たまりがあるが、その中ではいちばん、風情のよいところだった。

 仁田山分岐あたりからは、しっとりした、シラビソの樹林帯を、ゆるやかに登降する。
 尾根上は、凹地になっているところが多く、コゴミやヤマドリゼンマイ、その他、名を知らないシダが、大群生していた。

 ひとしきり歩いて、易老岳。
 苔むした樹林帯の中の、好ましい場所だが、三角点のある広場周辺には、空き缶やスーパーの買い物袋が、異常にたくさん、投棄されていた。
 その原因がわかったのは、翌日だったが。

 ここで、お昼をとり、少し下ると、シラビソが一斉更新した立ち枯れ帯。
 南アルプスにも、こういうところが、あるのだな。

 三吉平からは、石のごろごろした、沢状のところを登りつめ、飛びだしたところは、光岳のふところに広がる、センジヶ原の一角。
 ミツバオウレンやミヤマキンポウゲくらいしか花のない湿原だが、山上湿原の大好きなおれとしては、こういうところを歩くことができて、とても幸せだった。
 木道をぽくぽく歩いて、光小屋に着いたのは、まだ、午後1時前だった。

 テントの設営を終えてから、空身で、光岳のピークに向かった。
 テント場から、山頂はすぐだった。
 おりしも、ガスの中、霧雨が降ってきたし、三角点のすぐ下に、でかい立て看板が立っていたし、シラビソをひどく枝打ちしたあとの、大枝小枝が乱雑に放置してあったので、光岳に、あまりよい印象は持てなかった。
 光岳はとにかく、俗っぽい山だという印象だった。

 テントに戻ると、ハイカーがつぎつぎと到着し、おれは一番最初だったのに、小屋前のテント場は、すぐに、満杯となってしまった。
 さほどたいした山とも思えないのに、なぜこれほど人気があるのか、おれには、理解できなかった。

 テントの中でビールを飲んでいると、2時過ぎから、さっそく、雷雨が降り出した。
 一日の行動をすべて終えてから降り出すなんて、なんたるグッドタイミング。
 前夜の経験もあるので、余裕があり、いくらか浸水してきて、水がたまってから、またまた排水作業にいそしんだ。

 雷雨は、1時間少々でやんだが、5時過ぎにふたたび、降り始めた。
 それも、1時間ほどで、やんでくれた。
 しかし、夕方の雨だけに、気温は一気に低下し、眠りにつく直前、8時半に計測したところで、13.5度。
 夜半の寒さが、思いやられた。

5日目

イザルヶ岳の黎明
鞍部から見上げる茶臼岳

 案の定、寒い夜だった。
 この日は、下山するつもりだったので、3時過ぎに起床し、トイレに行ってみたら、暗がりの中で、3人の宿泊客が、順番待ちをしていた。
 この時間に、こんな状態になるとは、驚いた。

 おれは、寝るときからずっとレインウェアを着ているからまだましだが、ふとんから抜け出してきたままの格好の人たちにとって、屋外でじっと立ちつくしているのは、かなりつらかったのではなかろうか。
 少々ガスがかかってはいるが、まずまず晴れており、頭上に、カシオペアが、輝いていた。
 ぼんやり空を見ていると、流れ星が一つ、流れた。

 前夜のうちに炊いておいたご飯をかき込み、急いでテントを撤収して、テント場をあとにしたのは、4時半。
 天気がよいので、イザルヶ岳でのご来光を、期待したのだ。

 イザルヶ岳は、稜線のすぐそばのピークだが、光岳本峰よりはずっと、風情のよいところだ。
 風雪のせいだろう、盆栽のように曲がりくねったダケカンバが、何本も生えていて、それだけでも、鑑賞価値がある。
 ピークは火山のようにざくざくしており、展望は、360度。
 日の出は、白根南嶺の一角からだが、富士山も、東南東の方向である。

 低いところに雲が残っており、すっきりしたご来光を見ることはできなかったが、雲間から射し込む朝の光を、ひさびさに、拝むことができた。

 前日歩いた道を、この日は、戻る。
 ひどく早い時間に、ほぼ空身で、光岳に向かって歩いてくるハイカーが数パーティ。
 この人たちは、どこで泊まったのだろう。
 易老渡や茶臼小屋からでは、この時間に光に到達することは、まず不可能なのに。

 疑問は、易老岳に登り着いて、氷解した。
 易老岳の三角点周辺のスペースが、テント場と化していたのだ。
 どうりで、ゴミが多いと思った。
 ちょっと見ただけではわからないように、木のウロに、買い物袋に入れたゴミを、つっこんであったりもする。
 この人たちは、トイレは、どうしたのだろう。
 苔むした自然林だからといって、うかつに踏み込んだら、靴の裏がきっと、悲惨なことになったことだろう。

 仁田山分岐の先のハイマツ帯で、北側の展望が広がった。
 兎岳、聖岳、上河内岳、茶臼岳が、並んでいた。
 じつに、すばらしい山々だった。

 仁田池から、この日は、茶臼岳へ直進した。
 ハイマツとガンコウランにおおわれた、気持ちのよいところをひと登りで、岩塊積み重なる、茶臼岳。
 ここも、よい頂(いただき)だった。
 茶臼の山頂には、鮮やかなピンクのタカネバラが、数株、みごとに咲いていた。

 ガスってはいたが、北よりの風だったので、雨の可能性は、低い。
 涼しい風に吹かれながら、下界の暑さを思うと、なかなか、去りがたかった。

 ゆっくり下って、茶臼小屋。
 ここで、この日二度目の昼食。
 もう、食べのばす必要がないので、ザックの中の麺類を、どんどんたいらげた。

 ここも、お花畑で、カイタカラコウ、クルマユリ、マルバダケブキ、ミヤマキンポウゲ、ハクサンフウロ、ミヤマコウゾリナ、ギョウジャニンニク、タカネグンナイフウロなどが、さかんに咲いていた。

 茶臼小屋から下は、ずっと樹林帯。
 はじめは、ダケカンバ混じりのシラビソ林だが、標高を下げると、若い二次林となる。

 横窪沢まで下ると、渓音がなつかしい。
 きのこは、ベニテングタケ、テングタケ、ヤマイグチ、チャヒラタケ、ヒカゲウラベニタケ、カワリハツなどを見た。

 さすがに長い下りだったが、午後1時には、東海パルプのバスが通る道路に、でることができた。
 ダムサイトの駐車場には、入山した日は、おれのも入れて、2台しかなかったが、飛び石連休になる金曜日とあって、ざっと200〜300台の自動車が、ダムサイトや路上のそこここに、停まっていた。