残雪を割るフクジュソウ
- 独鈷山 -

【年月日】

2005年3月31日
【同行者】 Uさん
【タイム】

前山登山口(10:50)−フクジュソウ群生地(10:55)
−独鈷山(11:30-12:45)−沢山湖登山口(13:30)

【地形図】 別所温泉、武石 ルート地図

フクジュソウ
フクジュソウ

 独鈷山とは、立派な山名だ。

 独鈷とは何か。
 仏具の一種で、煩悩を破砕する武器のようなもの。

 茨城県里美村に三鈷室山という山があるが、独鈷の尖先がひとつであるのに対し、三鈷は尖先が三又に分かれたものをいう。  独鈷あるいは三鈷のいずれも、今の日本で聞き慣れない単語であるが、密教文化華やかなりし中世日本では、ちょっとした物知りの誰もがよく知る道具であった。

 中世の日本人は、日本列島が独鈷の形をしており、それがゆえに日本が聖なる国であるという観念さえ持つに至った。
 聖なる日本を守護しているのが、架空の生き物である龍であった。
 日本と独鈷との関係については、『龍の棲む日本』(岩波新書)を参照されたい。

 信州上田には、由緒ある密教仏閣が多い。
 密教文化の地方拠点でもあったと思われるこの地に、独鈷山が存在するのは、とてもわかりやすい話なのだ。

 下山口に予定した沢山湖から、自転車で中禅寺に向かう。
 冬季休業中のゴルフ場の前を通る道は、まだ開通していないが、自転車の通行は可能だった。
 独鈷橋に自転車をロックし、大きな看板のわきから歩き出す。

 ミソサザイのさえずりが響く登山道は、しばらくずっとスギ林。
 残雪が硬くクラストして、歩きにくい。

 小1時間ほど歩いて、カラマツ林。
 山頂まであと70分の表示がある。

 一帯はフクジュソウの群落で、残雪を割って伸びたフクジュソウが、今まさに咲こうとしているところだった。
 その他の花はほとんど見えなかった。

 ここから先は、胸を突くような急登。
 沢筋から尾根へ一気に登っていく。
 岩場には、イワヒバがはりついていて、修行の場らしい雰囲気もある。

 氷化した雪をだましながら登りつめると尾根の上。
 アカマツの多い尾根にも、雪が多少残っていた。
 曇り案配だが、夫神山、女神山、子檀嶺岳などが望まれた。

 ヒガラのさえずりを聞きながらようやく、頂上直下の三叉路。
 頂上には2基の祠があり、360度の大展望が得られた。
 ピーク下にあるシラカンバの純白の樹肌が、たいへん鮮やかだ。

 ここからは、上田平野のほぼ全貌が見えるのだが、耕地整理された田んぼと要所に点在するため池が印象的だ。

 風が強いので、美ヶ原を望む南側で大休止。
 平日とあって、静かな山頂だった。

 沢山湖へは、宮沢口への下山路を少し行って尾根の南側を巻いていく。
 こちらは、勾配の少ない緩やかな道だが、夏の間はヤマブキなどが繁って、ヤブっぽくなりそうな感じだ。

 しばらく尾根を行き、北に落ちる沢沿いの、やや不鮮明な道に入る。
 この道沿いにもフクジュソウが咲いていた。

 下山後、時間があったので、山麓にある無言館を訪ねた。
 こちらもまた多く、考えさせられることがあった。