街なか登山
- 大和三山 -

【年月日】

2014年12月28日
【同行者】 単独
【タイム】

近鉄橿原神宮前駅(8:02)−橿原神宮(8:13)−畝傍山(8:41-8:44)
−近鉄畝傍御陵前駅(9:46)−天香久山(10:41)−藤原京あと(11:16)
−耳成山(12:06)−近鉄大和八木駅(12:44)

【地形図】 畝傍山 桜井 ルート地図

 近鉄電車はドアを開けながら、「ドアが締まります」と車内放送する。
 また、ドア開閉ボタンがついていないので、特急通過待ちなどで長く止まっている間も、ドアを閉めてくれない。
 そんな「発見」をしながら、橿原神宮前駅をおりた。

嗚呼義民惣次郎霊碑(大きな写真)
照葉樹林の重厚な並木(大きな写真)

 年の暮れとあって、境内に参拝者はおらず、神官の方たちが忙しそうに、新年の準備に働いておられた。
 拝殿前の広場の砂には箒の目が入っていて、通るのは憚れたので、建物に沿って拝殿に向かった。

 どういうわけか、東に面した拝殿で参拝し、北側の門を抜けると、東大谷日女命神社前に出て、畝傍山登山口の道標があった。
 登山口には、嗚呼義民惣次郎霊という大きな石碑が建っていた。

 惣次郎は、旗本領だったこの一帯で、18世紀後半の明和期に起きた強訴の中心人物だったらしい。
 説明板には一揆の経緯が簡単に記されているが、惣次郎が村の中でどのような存在だったのかや、なぜ彼が一揆を指導するようになったのかについては、書かれていない。

 近所の人が朝の散歩代わりに登る山らしく、人通りは多く、登山道の落ち葉も掃かれている。
 照葉樹の雑木林は自分には珍しい。

 ほとんど平坦な道をトラバース登りで、すぐに山頂に着いた。
 ここもまた、近所の人のたまり場になっていて、大ぜいがベンチに腰掛けて、大きな声で健康談義などしていた。

畝傍山(大きな写真)
天岩戸神社(大きな写真)

 休むほど歩いていないので、来た道をやや戻り、畝火山口神社へ下った。こちらは「畝傍」ではなく「畝火」なのだった。
 山裾の集落を回りこんでいくと、金網で囲まれた広大な照葉樹の森にぶつかる。
 なんの看板も出ていないが、これが神武天皇陵だということはわかる。

 広大な神武陵の周辺には、どれがそうなんだかわからない綏靖陵とか安寧陵とか懿徳陵などが作られているようだ。
 この一帯は、奈良県によって「歴史的風土畝傍山特別保存地区」に指定されているのだが、ここで言う「歴史」が古代史を指すとすれば、インチキな話だ。

 神武陵が現在地に比定されたのは幕末だが、神武の存在自体がほぼ完全にフィクションなのだから、その人物の墓の位置に根拠などあったものではない。
 江戸時代まで神武陵の地に存在したのは、とある被差別部落だった。
 この地の「歴史的風土」というなら、フィクションを史実化しようとした偽造の歴史の記念としてだろう。

 これが神武天皇陵である必然性はカケラも存在しないが、クスやカシ類が繁茂した森では、野鳥の声が響き渡っており、その現実は好ましかった。

 照葉樹の植えられた立派な並木の道路を西へ向かい、畝傍御陵前駅を過ぎて本薬師寺跡まで来ると、市街地を抜ける。
 前方の丘が香具山だが、まだちょっと距離がある。

 法然寺のカドを曲がって路地に入ると、天岩戸神社。
 ごくごく小さなお宮だが、その昔、この地にたどり着いた少部族のスケールの小ささがリアルだとすれば、この神社の大きさがちょうど胸に落ちる。

 数時間あれば巡拝できる大和三山エリアを「国家」だというのは荒唐無稽だが、この小さな世界で繰り広げられたさまざまな恋愛やモメゴトにはむしろ、リアリティがある。
 たとえコップの中であろうが、そこで男や女は、懸命に生きていたのであるから。

香具山(大きな写真)
マガモ(大きな写真)

 香具山を降りると、耳成山がまたまた遠い。
 耕地整理された広大な水田地帯を、とぼとぼ歩いて行くと、藤原宮あと。
 史跡としてもっと整備したほうがよいように思うのだが、大極殿跡でテニスの練習をしている人なんかもいて、説明板もろくに立てられていなかった。

 耕作されていない田んぼもあるが、周囲は、みごとな水田地帯である。
 古代の大和盆地の風景も、基本的にはそう変わらなかっただろう。
 目の前に広がる景色から、脳内CGで道路と建物を消去し、宮殿と竪穴住居を書き加えると、1300年前が蘇ってきて面白い。

 「やまとは国のまほろば」と呟いた権力者がいた。
 それは彼の、心からの実感だっただろう。

耳成山(大きな写真)
耳成山登山道(大きな写真)

 街なかで何度かルートミスしながら耳成山へ。
 三山の中でもっとも小さな山だが、やはり照葉樹に覆われた、落ち着いた雰囲気の山だった。
 山頂を伐採して展望よくするなどということがよく行われるのだが、山頂はむしろ樹林に囲まれた静かな空間であるほうが好ましい。

餌を探すシロハラ(大きな写真)
メジロも遊ぶ

 耳成山への最大の問題は野良猫が多いことであるが、野鳥もそれなりに多く、シロハラ・メジロ以外にも、エナガやルリビタキらしい鳥などを見ることができた。
 ほとんど道路を歩いていたのでそこそこ疲れたが、お昼すぎには八木駅に着くことができた。