岩屋町あたりの棚田
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桃尾(もものお)の滝の駐車場から自転車を乗り出し、天理の市街地まで、いったん下る。
けっこう寒いので、人通りはさほど多くないが、「ようこそおかえり」と大書された建物が林立するなかを、黒い法被の上にジャケットを着た人々がそこここに歩いていて、この町独特の雰囲気があった。
あきれるほど巨大な天理教本部の建物を見て、西名阪自動車道の天理インター方面へ、こぎ登る。
西名阪のガードをくぐると、岩屋町。
明るく開けた谷間の、南向きの斜面に畑や田んぼがつくられ、もっとも日当たりのよさそうな一角に、人家がかたまっている。
道標のある登山道入口付近に自転車をデポし、棚田の景観を楽しみながら、西名阪をくぐる。
そこから登っていくあたりにも、美しい棚田が築かれていた。
平野部の水田は、高度成長期以来、耕地整理が進み、ほとんどが長方形に整形された。
また、多少の段差も、重機を使った大規模な土木工事によって、平坦化され、農機による作業に適するように改造された。
農業のグローバル化の第一歩は、1950年代末に開始されたのではないだろうか。
しかし今なお進められつつある農業のグローバル化ポリシーは、どれだけ、日本の地形や気候を考慮して設計されていただろうか。
農産物価格の面で世界標準に近づくことだけを目的としていたわけではあるまいが、結果的に、日本独自の自然的・社会的条件を軽視した政策は、はたして正しいのだろうか。
整然と区画化された田んぼより、等高線に沿った美しいカーブにふちどられた棚田の方が、よほど美しいと、わたしは思う。
一番奥の田んぼは、すでに水が抜かれ、ヒノキの苗が植えられていた。
山道にはいると、ほとんどずっとスギ・ヒノキの植林帯。
共有林らしく、手はそれなりに入っているようだった。
下生えの、サカキ、アオキ、シラカシ、ツバキなどが青々としていた。
ショウジョウバカマは葉っぱだけだったが、ハナミョウガに真っ赤な実がついていて、美しかった。
緩やかに登って、峠状のところ。ピークは、この少し上だ。
山頂付近は、植林はされておらず、ほぼ雑木林。
関東とちがって、グミの仲間のような常緑樹が混じっているのが、珍しい。
曇っていて寒いが、風を避けられるところで大休止。
小さな山だが、ピークにたった満足感がある。
眼下には、天理の町。広大な奈良盆地が望まれて、国見という山名もうなづける。
帰りは南側、桃尾の滝方面へ下った。
大親寺は由緒あるお寺だということだったが、建物や石像物がいかにも新しく、あまり感興が沸かなかった。
桃尾の滝わきの岩に刻まれた磨崖仏の不動像は、かなり古そうだった。