槍ヶ岳に届かず
− 新穂高から双六池 −

【年月日】

2011年7月28日〜8月1日
【同行者】 多数
【タイム】

7/28 新穂高温泉(12:17)−ワサビ平小屋(12:54) 幕営
7/29 ワサビ平小屋(5:49)−秩父沢(6:57-7:07)
   −シシウドヶ原(8:05-8:24)−鏡平(9:00-9:12)−尾根の上(10:20)
   −双六小屋(11:38) 幕営
7/30 双六小屋(7:16)−尾根の上(8:15)−鏡平(9:06-9:20))
   −シシウドヶ原(9:59-10:08)−秩父沢(11:11-11:22)−ワサビ平小屋(12:28) 幕営
7/31 ワサビ平小屋で終日停滞
8/1 ワサビ平小屋(5:59)−新穂高温泉(6:54)

【地形図】 槍ヶ岳、穂高岳、三俣蓮華岳、笠ヶ岳 ルート地図

1日目 (新穂高温泉幕営地〜ワサビ平幕営地まで)

蒲田川の濁流
ウバユリ咲くわさび平小屋

 新穂高温泉のバス停で降りると、強い雨が降っていた。
 ちょうど4年前も、こんな感じだったが、その時の雨は程なくあがったのだった。
 残念ながら今回は、やみそうな雨ではなかった。

 蒲田川は大増水しており、一両日の間に記録的な豪雨が降ったことが想像された。
 この日はわさび平までなので問題なかったが、翌日の行動に支障があるのではないかと危惧されるほどの濁流だった。

 靴を濡らしたくないので、車道にできた水の流れを避けながら、黙々と歩いて、わさび平に着いた。

 すぐに設営してひと息入れたが、多少小やみになることはあったものの、この日はほぼずっと降り続けた。
 小屋前のベンチは雨のため誰もいなかったので、夕食の準備に使わせてもらったが、合羽を着て炊事しなければならない状態だった。

2日目 (ワサビ平幕営地〜双六岳幕営地まで)

 最初は前日同様、水の流れる車道歩きだ。

 橋の手前から登山道に入り、奥抜戸沢を渡る。
 橋のかかっている秩父沢より、こちらの渡渉を心配していたが、蛇籠で作った飛び石があったので、問題なく渡れた。

 秩父沢まではずっと、変化に乏しい潅木帯なので、我慢の登りだ。
 秩父沢を渡ってところで小休止したが、雨は相変わらずで、じっとしていると寒い。
 みんな、口数も少なく、雨中の登りがこたえているようだった。

 その先も似たような道が続く。
 シシウドヶ原のベンチで休んだ時も、年少の人たちは特に、元気がないように見えた。

 シシウドヶ原から鏡平までは、多少、傾斜がゆるんで楽になる。
 ここの道沿いの沢も、あふれそうに流れていた。

 鏡平は高山植物も見られて、風情のよいところなのだが、雨宿りする場所もなく、この日は濡れて寒かった。
 ここは、テントより小屋泊まりが合ってそうな気がする。

 池を渡り、小尾根にとりつく。
 しばらくはそれほどでもないが、尾根上へのちょうど中間点あたりでトラバースになるあたりから、高山の花が多くなる。
 ミヤマキンポウゲ・ハクサンイチゲ・エゾシオガマ・シナノキンバイなどが多い。

シナノキンバイ咲く
ハクサンイチゲ群落

 弓折乗越で、小休止。
 シナノキンバイ・ミヤマキンバイ・ハクサンイチゲ・ミヤマキンポウゲ・ダイモンジソウなど、周囲のお花畑は満開で、すばらしかった。

 ここからは小さな登り下りはあるが、花を見ながらの稜線漫歩である。
 上の花以外にも、ネバリノギラン・ウサギギク・アキノキリンソウ・ミヤマコウゾリナ・ニッコウキスゲ・コバイケイソウ・クルマユリなどが乱れ咲く。

 これを楽しみながら歩くことができれば、疲れも半減するというものだ。
 双六池が近づくと、両側にヨツバシオガマ・アオノツガザクラ・イワカガミ・クロユリ・イワツメクサなどが咲く木道になり、4年ぶりの双六池キャンプ場に着いた。

小雨降る双六池周辺(大きな写真)
クロユリ濡れる

 設営後も断続的に小雨が降り続いていたが、空は比較的明るく、風とともに雨粒が飛来するという感じだった。
 この日の行動中に、シュラフや着替えを濡らしてしまった人もいて、つらい夜になりそうだった。
 標高約2550メートルのテント場だけに、冷えが心配されたが、さほど寒くならなかったのは幸いだった。

 気象情報は相変わらず、奥只見・川内山塊の豪雨を伝えており、富山県東部にも大雨警報が出ていて、翌日も状況に大きな変化はないと言っていた。
 翌日、槍ヶ岳に向かうとしても、槍ヶ岳山荘で幕営するのは厳しいと思われたので、進むなら槍ヶ岳を越えてババ平まで行くことも考えていた。

 槍ヶ岳を楽しみにしていたメンバーには気の毒だが、悪天にはかなわない。

 夕方、小さな青空も見えたのだが、深夜にまた、かなり激しい雨が降った。
 この雨は、風とともに来る雨でなく、雨粒だけが落ちてくる本格的な雨で、撤収を前にしてもやむ気配がなかった。

3日目 (双六岳幕営地〜ワサビ平幕営地幕営地)

ヨツバシオガマ
クルマユリ垂れる

 3日目の朝に体調を尋ねると、何人かの調子がよくないという返事だった。

 これで、これ以上進むのは、不可能となった。
 双六池で停滞し翌日下山ということも考えられたが、状態が好転する保証はなく、動けるうちに下山したほうが得策だと思われた。
 とりあえず荷物を背負って歩くことができる状態だったので、撤退を決定し、雨中で撤収して、来た道を戻ることにした。

 雨は強くなったり弱くなったりを繰り返しており、稜線を進めば困難な行動を強いられただろうと思われた。
 再び濡れてしまいはしたが、わさび平までほぼ問題なく下ることができたのは、幸いだった。
 設営すると、午後には雨があがり、濡れたものをいくらか乾かすこともできた。

 この夜にはかなり激しい雨に加えて、雷鳴もとどろいたが、特に問題なかった。

満開のエゾシオガマ
ニッコウキスゲ咲く

4日目 (ワサビ平幕営地停滞)

 バスを5日目朝に頼んである関係で、4日目は、停滞日だった。
 午後に雨という予報どおり、朝のうちに雨がやみ、日光もいくらか漏れてきた。
 この日の午前中は、絶好の物干し日和だったので、ありとあらゆるものをザックから出して並べ、テント場はフリーマーケットのようになった。

 せっかくののんびりした時間なので、朝のミーティングのあとで、テント場をぐるっと一回りして、ブナの森を観察した。

わさび平のブナ
わさび平のブナ林

 周囲の危険な植物としては、ツタウルシとヤマウルシが見つかった。
 このテント場で、ヤブに入るのは危険だということがわかっただろう。

 林縁にはウドがたくさん生えており、雪解け時期にはこれをいただいてしまうキャンパーもいそうだった。
 ブナの立ち木にムカシオオミダレタケが出ていたが、それ以外に、目立つきのこは出ていなかった。
 倒木もあるので、秋にはナメコやブナハリタケが出るかもしれない。

 花としては、ノリウツギが満開だったほかに、タマガワホトトギスが林縁に、小屋前てウバユリが咲いていた。

コムラサキが来た
ルリタテハも来た

サカハチチョウ
キマダラヒカゲ

 穏やかに晴れていると、テント場には、たくさんの蝶が吸水に訪れた。
 最初は種名不明のセセリチョウやキマダラヒカゲしかいなかったが、コムラサキやルリタテハ、サカハチチョウ(春型)などが干し物にとまって、水を吸っていた。

 このまま降らずにいてくれれば助かったのだが、午後になると、予報どおりに強い雨が降ってきた。
 この日は、テントの布や縫い目から水滴が落ちたり、浸水対策の溝を掘るなどの対応に追われた上、せっかく乾いた装備類の一部がまた、濡れてしまった。
 この雨は夕方になっても降りやまず、翌日の明け方まで、降り続いた。

5日目 (ワサビ平幕営地〜新穂高温泉)

タマガワホトトギス咲く
ノリウツギ満開

 それでも、起床時刻の4時半前に雨があがったのは、これまた幸いで、曇り按配のもとで撤収することができた。
 新穂高に向かって下り始めると、緑濃い朝のブナ林は美しく、もっとのんびり歩けばよいのに、みんなずいぶん早足だったのは、やはり気持ちが家に向かっていたのだろう。

 バスターミナルに着いたのは6時前だったので、8時半に集合することにして、日帰り温泉の「奥飛騨の湯」で数名と汗を流していたら、バスの運転手さんから「もう着いています」という電話が入ったので、急いでバスに向かった。